第50話 なんで?

 最後の、動物としてのボスがいた場所についてだね。あれには驚いたなあ。驚きすぎて声が出たもの。


『なんでトリとサルが一緒の場所にいるわけ⁈しかもトリになんでヘビの姿してるような尻尾生えてるの⁈意味分かんないよ⁈』


 ってね。分かるわけないよね、自分の目を疑ったし。自分の目が急におかしくなったのかなあって。けれど、ライオス達も同様のものが見えていたみたいだからその光景が嘘ではないのだと分かった。いっそのこと嘘であってほしかった。幻であってほしかった。

 ゲームとか漫画とかで聞いたことはあったのだがまさか本当に見る日がきてしまうとは予想外だ。ニワトリにヘビの尻尾……よくよく見ると他にも他の動物の要素がついているようだった。あれはきっと、バジリスクというものかな。初めて見たけれど悲しくなった。なぜそのままでも生きることのできる動物にわざわざ他の要素を出してしまうのか、なにも理解ができなかった。したくもなかった。私が動物を好きだからだろう。飼育したこともある動物だから余計にそう思ったのだ。


 バジリスク……と呼んでいいのかは分からなかったけれど、とりあえずそう呼ぶことにしようか。サルの話もしなければいけないとは思っているのだが、先にバジリスクの話をさせてもらおう。

 キメラ、だったか。ああいう色々な要素を合体させられてできるものを指す時は。キメラというのは人間の意思によって実験されてできるというという知識はあった。漫画やゲームの知識だから合っているのかは不明だったのだが。実際にそんなことをしている人がいたのかも知らなかったしなあ。

 だが、あの時実際に見てしまった。ニワトリと他の動物が合体した姿を。このダンジョンにいるものは全て『ある男』が連れてきたのだろうと思っていたけれど、バジリスクもそうだったのかと考えると誰が実験したのかという話になってきて私は怒りの感情でいっぱいになっていた。

 仮に『ある男』だとするなら、やはり最後まで行って話を聞く必要があるなとより一層早く進みたくなったから結果的には良かったのかもしれないけれどね。いや、良くはないか。だって苦しそうな目にあった子がいたのだから。

 そんな苦しそうな目にあってしまったのに私はまた苦しめてしまうのかとなかなかバジリスクと戦う気が起きなかった。ライオスやヴォルフはやる気満々だったのだが。ニコは後ろで治療するためにと攻撃が当たらない安全なところにいてもらっていた。


 初めてあの場所に入った時はジャングルかと思った。若々しい木が沢山ありその中には果物の実がついているのもあった。なぜダンジョン内にそんな木が立っていたのだろうか。そんなことはどうだっていいか。だって他の階には水が張っていたり草原だったりしていたから、木が立っていることだってあるだろうし気にすることではない。

 まあ、その木を利用していたのはバジリスクではないからあとから話そう。


 バジリスクは自分自身の力で私達に立ち向かってきた。しかし、私は聞こえてしまったのだ。その時のバジリスクが他の誰にも聞こえないと思って出したであろう言葉が。


『痛い、痛いなあ。僕もう僕じゃないんだなあ。もうこの世界にいたくないなあ。復讐しようって想いも出てこないしなあ。この人達なら僕を倒してくれるかなあ。弱くないかなあ。僕のことちゃんと倒してほしいなあ……攻撃し続けたら反撃してくれるよねえ。でも傷つけたくはないし少しだけの力にしておこうかなあ』


 そんな想いが乗った言葉。バジリスクの感情がとてもよく分かる言葉。痛いと言っていた。復讐する気持ちはない、か。自分を傷つけたものに対してそんな気持ちが湧いてこない。それはいいことなのか?私には、その感情を出さないようにと実験されたようにしか思えなくて、より怒りの感情で支配されそうになった。だが、向き合うならそんな感情に支配されてはいけないと、考えないように心を落ち着かせた。


 攻撃をしてくるのは私達に倒されたいから。でも、傷つけたくもない。なんだか、私に似ているようだなと思った。

 私も進むためには、倒さなければと思っていても傷つけたくないとなる人間だから。見た目は奇異でも考え方は人間と同じなのだ。

 だから攻撃することに躊躇いそうになってしまったけれど、それだとバジリスクの想いに反することになると考えて剣を構えることにしたのだ。傷つけたくないと、苦しめたくないと思っていた。だが、倒されたいとバジリスク自身が願っていたのだから報いなければと、決心した。


『今解放してあげるからね』


 私はあの時そう言った。なぜ解放という言葉が出てきたのかは自分でも分かっていない。それでも、きっと伝えたかったから出たのだ。その言葉に全ての感情を込めて言った。


『僕の声聞こえてたの?痛みから解放してくれるなら嬉しいなあ』


 バジリスクはそう答えてくれた。

 嬉しい。自分が消えることに対しての恐怖なんてない。思い返せば今までのボスだって恐怖なんてしていなかったからな。

 それもそうか。満足したら消えるのだから恐怖ではないのかもしれないな。

 

 私はそんなことを考えたあとバジリスクへの攻撃を開始したのだった。ライオスも一緒に剣を振るっている。

 もしかしたら抵抗しないつもりかと思っていたバジリスクは抵抗してきた。


『僕、倒されたいけど制御できるのは力だけなんだあ。ごめんねえ』


 そう言っていたので納得した。自分にできるのは力の制御だけだから攻撃は止めることができないのだと、説明してくれた。まあ、抵抗しない相手を倒すというのも気が引ける話ではあるな。元々、倒すという言葉自体好きではないのだが。


 私は剣を振ったり、これまで得たスキルを使ったりした。

 分身が一番使ったかな。挟み込んで短剣を振ったのだ。バジリスクの身体が硬くてなかなか傷がつかなかったのだけれどね。ライオスも一緒に戦ってくれて、スキルも使っていたなあ。

 最終的には私の短剣が、バジリスクの急所を貫いた。どこが急所か分からないままに剣を振り続けていたらそこが急所だったのだ。


『やっと消えることができた……』


 バジリスクの最後の言葉はそれだった。願いは叶えられた。

 だが、私に残ったものは貫いてしまったという感情。初めてだった。感触はあまりなかったし血だって不思議なことにあまりつかなかった。それなのに、私には、何かよくわからない感情が渦巻いていた。

 けれど、まだ一体残っていると、自分の感情をコントロールし切り替えることにした。

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