第49話 夢をみた

 このまま次のボスについて話そう。結論からなら、私の仮説は正しかった。クマから得たスキルというのは脚力と拳の強さ。その二つと、身体も強度が増したようだった。

 なぜそのスキルがないと戦えなかったのかというと、次のボスがヒツジだったからである。ヒツジと身体強化は関係ないと思うだろう。私だってそうだったからな。ヒツジは温厚だから力を使わなくたって大丈夫だって思っていた。しかし、それが間違いだったのだ。


 ヒツジの群としての完成度の高さを侮っていた。入った時から不思議に感じていたのだ。日本にいる大きさほどのヒツジだったから。大きなボスばかりを見ていたから違和感しかなかった。ボスがいる場所に普通の大きさで何体もいるのを見たのは初めてに近かった。だから、自分の判断を間違えた。

 

 群れでかかってくる可能性を考えていなかった。温厚なら話をすればなんとかなると本気でそう思っていた。そんなだから甘いとか言われるのだけれどね。そして、話し合いでなんとかなるだろうと考えていたからこそ一人だけ前に出て話そうとしてしまった。

 その瞬間に私は、自分自身のダメダメさに気づかされた。

 私に向かって沢山のヒツジが突進してきたのだ。だが、ケガはしなかった。そして突進されたと同時に私は不思議な感覚に、経験したことのない感覚に陥った。その時のことはまだ詳細に覚えている。


 私は一種の白昼夢を見たと言えるのだろう。私は夢をみた。とても幸せな、自分が満足できるような夢。忘れることができない。だってもう二度と見ることができないと確信を持って言えるから。だからこそ詳しく教えたいと思う。これは私の夢の話——


((どこまでだって広がっていると思える草原に私はただ一人で寝転がっていた。そこにいるのが本当の自分なのか、それともまた違う人間なのか、そんなことを考えて寝転がっていたのだ。けれど、一瞬の隙に不可解なことが起きた。隣にうさぎや猫が私を囲んでいた。それは私が大好きなもふもふな子達。私はその子達を撫でていた。その時ふと考えたのだ。私はいつからもふもふしたものが好きだったのかと。初めは、猫だった。ある時出会った猫はダンボールに入れられていた。それで分かったんだ。この子には愛が足りていなかったのかもしれないなと。だから、私は拾って育てることにした。その子をきれいにすると毛ももふもふになった。それが私のもふもふ大好きになったルーツである。それを思い出すだなんて……そんな時だった。私の姿が急に小さくなった。それこそ猫と出会ったあの日の姿。そして雨が降っていた。あの日も雨が降っていた。ダンボールに入ってか細く泣いていたあの子の姿。もう一度会えた))


そこで私は夢から覚めた。きっと、私が気づいてしまったからだ。それが夢だと気づいたら夢から覚めるというのはよくあること。

 つまりその時もそうだったのだろう。

 もう二度と会えないと思っていたあの子の姿を夢だとしても、もう一度見ることができた。会うことができた。それが嬉しくないわけがない。だが、今の私はここにいる。そう思ったのだ。自分がもふもふ大好きになったルーツを再確認して思った。私は変わらずもふもふを好きでいようと。諦めることも立ち止まることもせずまっすぐ自分の好きに忠実であろうと。


 それを決めさせてくれたヒツジ達に感謝をした。その思いは届かったのだけれどね。

 突進してきてくれたから夢をみることができたのだから感謝したっていいじゃないか。ヒツジ達の攻撃だったのは分かっていたのだが。ヒツジ達のスキルが眠らせるものだったのかというのは不明だったのだが。

 まあ、突進そのものにはあまり攻撃力もなさそうだったからな。


 そしてヒツジ達は群れたままでいた。そこに攻撃するというのは大変心苦しいことであったが、話を聞いてもらうためにと一度だけ私はスキルを使った。

 クマから貰い受けたものを。拳の力。もちろんヒツジに拳を向けたわけではない。そんなことは間違ってもしない。したくない。私は地面に向かって拳を打ちつけたのだ。自分の思っていた以上の力が出て、地面には少しの窪みができてしまった。


 怯えさせてしまったけれど、話を聞いてくれる状態にはなったので結果良かったといえる。クマのスキルがあったからできたことだったので、やはり『あの男』というのが仕組んだことなのかもしれないなとまたそう思った。それよりヒツジとの話を全部終わらせてしまおうか。


 私が怯えさせてしまったからか、ヒツジ達はちゃんと話を聞かせてくれた。

『私達は穏やかに過ごせればそれが一番だった。けれど、もっと楽しめる場所があると聞いてここに来たの。この場所は広くてとても楽しい場所だった。でも、貴女達がきて騒がしくなるかもと思ってつい警戒心が強くなっちゃったわ。ごめんなさいねぇ』


ヒツジの内の一体がそう言ってくれた。

 私が聞きたかったことがしっかり入っている。私はなぜ急に攻撃してきたのかと気になっていたからなあ。普段は温厚なはずのヒツジが襲いかかってくるのには理由があるだろうと。それを聞くことができた。それに、ヒツジ達も『あの男』に誘われたということも知ることができた。

 謎はまだまだあるけれど、そのうち解ける。そう思おう。思うだけならタダだし。


『急にきてごめんね。貴女達がもっと楽しめる場所、私が提供するからまたきてほしいな』


 私はあの時そう返した。すると、ヒツジは


『楽しみにしてるわねぇ』


 と言って、全て消えていった。

 心が満たされたことの証明。それが分かっていても目の前でもふもふがいなくなることへ耐性はつきそうにない。


 と、ヒツジでのことはこんなところかな。

 次は、ボスのいる場所では最後の場所だった。

 一番驚いた場所とも言えるかな……

 

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