第48話 休憩……ではない⁈
ウマと会ったあとは休むこととなった。
ヴォルフは『疲れた』と一言言って寝ていた。そんな時だった。休めなくなったのは。それは大きな咆哮を出し、両手を上げて私達に襲いかかろうとしてきた。その攻撃を避けて逃げ、なんとか下の階へ走って降りることができたのだった。
しかし、安心したのも束の間……
先程逃げきったはずのそれが、私達を追ってくる音が、声がしたのだ。あの時はホッとした直後だったからとても驚いたなあ。今はそのことは置いておくとして、それについての話を続けよう。
それ、ことクマ。クマとは目を合わせてはいけないと言われているよね。背中を見せて逃げてはいけないとも。だが、私達はすでに両方してしまった。目を合わせ、背中を見せた。つまり、クマは私達を逃しはしない。そしてそのことが分かっていたかのように、その時の階にはなにもいなかった。下の階にもなにもいないような気がした。だから、次のボスがいる場所にいくまではずっと追いかけてくるだろうと推測したのだ。
推測したとしてそれはどうにかできることではない。日本でも凶暴だとして知られていたクマがもっと大きくなっている。一度は逃げられても、ずっと逃げるというのは容易なことでないだろうと思った。そんなことを考えていた間にも私達は走っていたのだ。時々襲いかかってくるクマから避けて、息を切らし次の階、次の階へと足を踏み入れた。
そこでとうとうきてしまった行き止まり。ボスがいる扉の前の場所だった。普段ならボスの場所には扉を開けさえすればすんなりと入ることができた。それなのに、開かなかった。
力が足りないのかもしれないと、ライオスを頼ったけれどそれでも開かなかった。そこで私は一つの仮説を立てた。このクマを倒すことで得るスキルで次のボスと戦えということなのだろうか、と。今まで戦ってきたボスのスキルは私達の中の誰かに付与されてきた。クマはボスとして出てきたわけではないがダンジョンを作った『ある男』はそれを示したのかもしれない、と。
仮説であったし、自分で考えたことだったしで、確証は持てないと心を落ち着かせた。けれど、心を落ち着かせている暇などなかった。前にはクマ、後ろには開かない扉。まさに絶体絶命の状況であったのだから。
私は一度深呼吸をし、覚悟をした。
(話が通じない相手、か。ついにきてしまったなあ。やるしかないね!)
そんな覚悟を決めて両手に短剣を握った。
正直に言ってしまえば、怖かった。今までも自分より何倍も大きい相手と対峙してきたけれど、あの時のクマは凶暴で私達のことを傷つけるという意思が明確だったから。
後悔していた分、話し合いで解決したいと思っていた私を否定されたような気がしたから。そんなことを考えていたって仕方ないと分かっていたのにね。まあ、必死にクマと戦ったわけなのだが。とにかく、スキルを持っていて良かったとは思わされた。
ライオスの身体が頑丈になっていて良かったと思ったのだ。ライオスは戦う気満々だった。今思い返せばなぜあんなに闘志にみなぎっていたのだろうか。私が短剣を出したと同時に剣を構えていたからなあ。そこは今は関係ないか。しかもそのままクマにきりかかりにいっちゃうしで……
その時に爪で攻撃された。けれど、無傷だった。事前に得ていたものが役立ったという感心と……先走らないでほしかったという不満が入り混じって複雑だったな。
ライオスが攻撃されたあとにヴォルフが電撃を放っていた。疲れていたはずなのに好戦的で、クマに何度も電撃をくらわせていた。ストレスでもたまっていたのかと思うほどだったな。そのおかげ……というのも変ではあるのだがクマはいなくなった。
最後まで攻撃していた姿を忘れない。
私は話ができないと諦めた。クマは諦めていなかったのになあ。あの時だったな。私が諦めたくないって思ったのは。
何があってもあのクマのように諦めないって、決めたんだ——
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