第44話 癒されたい
「はあ〜つっかれたぁ」
私はそのまま床に寝転がった。
床には傷ができていたし、靴で踏んだ跡だってあるけれど、そんなことは気にしない。
消失感をごまかしたい。ビラの最後は笑顔だった。それはとても喜ばしいこと。
だが、私の悲しみがなくなるわけではない。受け入れなければならないことだというのは頭では理解している。時間がかかっても自分の中でどうにか消化していく。みんなに心配はかけたくないから平常心は装う。
寝転がって腕で隠してしまえば私がどんな感情でどんな表情をしているのか見えないはずだから。涙も出そうだけれど、ぐっとこらえるからきっとバレない。
「おつかれ。すげえ戦いだったな」
そう言ってヴォルフが私の横にきた。
私には何も聞かず労いの言葉だけをかけてくれたヴォルフに感謝しつつ抱きしめる。
もふもふは私に必要なものだ。今ならもっと必要。私の癒しだからね。癒しだけでは埋まらない傷でも少しだけ悲しみは薄れる。
「お疲れさまですわ、セリナ様。おケガはありませんか?」
ニコも私の側に座った。
正座って座りづらいと思うのになあ。それが楽なのかな。
なんてのとを考えられるぐらいには私にも余裕ができたみたいだ。
「ケガはしてないよ。というか、つけないでくれたんだろうね」
ビラは決して手を抜いていたわけではない。けれど、彼女なら相手に傷をつけない戦い方もできたはずだ。だから、あとに困ることがないようにそうしてくれたのだろう。私の憶測だが。
「それなら良かったな。一人で立ち向かおうとするから驚いたぞ。状況を見て介入しないことを選びはしたが、不安で仕方なかった」
ライオスも私の近くにきて言った。
不安だった、か。そんな想いにさせていたのは申し訳ない。
それでも、状況を見て考えてくれたのはありがたい。ビラとの戦いは一人でないと意味がなかった。
彼女に必要だったのは、自分に真正面から挑んでくる相手。だから私は一人で挑んだ。その結果、彼女の心は満たされ消えることとなった。
彼女は最後『あの男との契約』と言っていた。過去の話をしていた時にも出てきたあの男という存在。それは一体何者なのだろうか。それに、私に似ているようで違うというのも気にかかる。
何を思って私に似ていると言ったのか……外見が似ていた?それはさすがにないか。では内面?甘いとばかり言われていた私と似ているということか?ならば話が通じる相手ではありそうだ。似ているようで違うと言っていたから話が通じないということも十分にあり得るのだけれど。
こうして考えていたってどうにもならないか。彼女の言葉は忠告だったのかもしれないし、ただ伝えておきたかったことなのかもしれない。どちらにせよ、彼女の言っていたあの男というのに会った時に分かることだ。
いつ会えるかも分からないけれどね。
今はもう少しだけもふもふに癒されていつもの私に戻りたい——
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