第42話 彼女の技
先程ビラが構えた刀というのは実は二つあった。一度目は一本だけしか使おうとしていなかった。
けれど、私相手にも鞘に納めたままだった二本目を使ってくれた。
少しだけ認めてくれたと思っていいのかな。なんて……
「ねっ!」
私はギリギリのところで刀を避けた。
受けて返せたら良かったかもしれないが、避けるしかできなかったのだ。
「ふむ。少しは動けるようになったみたいで安心したぞ」
「それはどうも!そっちこそ動けてるみたいだね!」
「強気なのがどこまで続くのかだな」
ビラが不敵に笑った。
気持ちだけは負けないとそう決めて避けた私の姿が弱く映っていなかったらいいな。
私もビラを煽ったけれど怒ってはいなさそうだ。それに少しズルをしたのもバレていないみたいだ。
私はビラが刀を振り下ろす直前にスキルを使った。『遅くなれ』と小声で言って刀を避けたのである。卑怯だと思う。だが、そうでもしなければ先程まで動けなかった私が一振り目を避けられる気がしなかったのだ。
実際危なかったしなあ。
でも、もう自分の力で受け止める。ここからはビラの太刀筋は自分で見切ってみせる。それが、彼女に見せることのできる誠意だ。
「まだまだいかせてもらおう。
ビラがそう言って刀を振った瞬間、私に見えた光景。
それは、水を、空間を切っているかのような青いツバメ。
初めて見たそれは、とても綺麗なものであった。しかし、受け止めなければ負ける。
そう思った結果が今だ。
「……ギリギリセーフ、だよね?」
「ほう……二つの短剣で我の刀を止めるとはな。中々やるではないか」
ビラはニヤッと笑った。
フードをとってからの彼女の表情は見えやすくコロコロと変わる。
そうだ、刀を受け止めたと同時に消えたツバメは一体……
「あのツバメはなんだったの?」
「我の生み出した偶像だ。簡単に言うならば我の技によって生まれたものである。イメージが共有されたのだろう」
ビラが説明してくれた。
イメージ、か。ビラの技が見せたもの。確かに美しかったからなあ。
そういったものが見えるようになるまでの剣技とは、どれぐらいの努力を積んできたのだろうか。
頑張ったのだろうということしか分からない。それを私との戦いで使ってくれたのだ。
やはり、私も本気で挑まなければならない。これまでの戦いで培った知識をフル活用して頑張ろう。
培った知識といっても、少ない。
それでもないよりはマシだ。
私だけでなく、みんなと力を合わせたからこそボスを乗り越えてきた。
しかし、今は私一人で乗り越えなければいけない。怖いけれど、強くなるためには必要なこと。
ビラとの真剣勝負は一人でじゃないと、ね。それを彼女も望んでいると思うから。
(全力でいくよ!私‼︎)
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