第40話 剣士の過去
私は黙り話を聞く姿勢をとる。
そうして、ビラは話し始めた。
「これは我の過去の話である……」
ビラは目を閉じた。
記憶を思い出すかのように——
「我はかつて日本という場所で剣士として探していた。師範に勝てるようにと、鍛錬を積んできたさ。そして我は師範に勝てた時、自らの剣の道を歩もうと決めたのだ。しかし、我は強くなり過ぎてしまった。我に挑む相手ら次第に減っていった。結局我を負かしたのは流行病であったな」
ビラはそう語った。
刀を納めた鞘を触り上を見上げているその姿は、かつての彼女を想像させるようである。
私と同じく日本からの転生者。彼女は剣士だったのだ。それも、志が高く強くなることをやめなかった人。誰かが挑んできても勝つのは彼女。それで挑んでくる人が減ろうとも、手加減することはない。
けれど、悲しかったのだろう。自分に挑んでくる相手がいないのは。
だから私が戦いを申し込んだ時少し嬉しそうにしていたのかと、納得した。
ビラが私が言葉を発したのを確認し続けて話し始めた。
「我はこの世界で新たな生を受けた。目を開けたら人間の手とは違ったので驚いた。我が使用していた刀は側にあったが最初は感覚を取り戻すのに必死だったな。我に与えられたものはクイーンという役職。剣士としての振る舞いしか知らなかった我にとっては分からないことばかりであった。そんな我の元にある男が現れたのだ。その男は我にあることを頼んできた。何年後かに我に挑んでくる相手が来るからダンジョンのボスをやってくれないか、とな。きっとそれが、貴君なのだろうな」
そう言ってビラは過去の話をやめた。
ある男……その人に頼まれたからビラはここにいる。
挑んでくる相手。何故何年後か不確定なものだけれど誰かがくると分かっていたのだろうか。
また謎が増えた。
だが、ビラがここにいる理由は私にも分かったと思う。全てを理解することはできないけれど。だって他の人に、その人の気持ちが分かるわけではないから。
それでも、届けられる言葉はある。
「そんな過去があったんだね。それで貴方は期待はずれかと悲しそうに言った。何年も待って来た相手が弱かったから」
「弱い、とまでは思っておらん。ただ、我に挑む度胸は認めた。貴君はろくに戦闘を積んでいなかっただろうに、我に立ち向かってきたのだからな」
ビラは言った。度胸だけは認めたと。私にあるのはその度胸だけ。彼女に勝っているのはそれだけかもしれない。
「ビラ、もう一度だけ私と勝負して。それでダメだったら、私は諦めるよ」
「貴君のその真っ直ぐさは、我の心にいる者を思い出させる。我も本気でいかせてもらおう」
ビラはフードをとった。
彼女がフードを被っていたのは自分の力を制御するためだったのかもしれないな。
勝てる保証なんてどこにもない。
負ける可能性の方が高い。そうだったとしても、私はここを越えなければならないから。
(いざ、勝負!)
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