第39話 闘い

 私とフードを被っている子は向かい合った。それ以外のウサギとヴォルフ達に邪魔されない位置で。

 フードを被った子は刀を構えた。


「名乗り遅れたな。我が名はビラ。どこからでもかかってくるが良い」


ビラ、か。なんだかラビに名前が似ている。少し戦いづらい。そんなことを考えていたらいけないというのは分かっているのだが。

 きっと、ビラの想いは戦うことでしか理解できないのだから。それを望んでいるのだとしたら私は全力を出そう。これは、私を超えるために私がビラに申し込んだ戦いでもあるのだから。


 私は深呼吸をし、短剣を持ちビラに斬りかかった。

 しかし


「浅い!」


あっさりと弾かれた。

 私は自分の手から離れてしまった短剣を再び手に取る。

 そしてまたビラに向かっていく。


「やああー‼︎」

「浅いと言っている!貴君はそんなものなのか⁈」


また軽く受け流された。

 傷一つ負っていない。息も乱れていない。

 力の差はこれほどまでに残酷に現れるものなのだろうか。

 私では敵わない。気を抜くとそう思ってしまう。けれど、弱気になればなるほど勝率が下がってしまうだけ。


(気持ちだけは負けない!)


「今度は我からいかせてもらおう」


ビラは深く息を吐き、刀を中段で構えた。

 背筋が凍る。感じたことのない緊張。

 もしかしてこれが『死への恐怖』というものなのかな……


「一歩も動けない相手を痛めつける趣味はない」


 ビラはそう言って刀を鞘に納めた。


「一度出したものを何もせず納めるなど、剣士にあってはならないこと。だが、我は思うことがあったのだ」


 重大なことをしてしまったというような顔をしているように感じる。

 声が少し悔しそうだからだろうか。


「我は貴君になら話しても良い。いや、こう言おう。話したいことがあるのだ。これは我の話……長ったらしくなるかもしれぬが、聞いてはくれんか?」


ビラは続けて言った。

「私で良ければ」


 私は笑って言った。

 ビラが何故フードを被っているのか、何故期待はずれかと、悲しそうに言ったのか。その意味を私も知りたいと思っていた。それを本人から、話したいと言ってくれたのだ。

 そんなの断る理由がない。

 

 私には話を聞くことしかできないと思う。

 それでも、私に聞いてほしいと思ってくれたのなら集中して聞くべきだ。

 ビラに何があったのか。それを聞いた上で、戦いを続けるのかは分からない。

 私に戦意がなくなるかもしれない。元々そんなにあったわけでもないし。

 

 まあ、話をしてからどうするかを決めるのはビラだ。

 私に話をしたいからと刀を納めたのだ。だから、話が終わった後に戦いを再開するのかを決めるのもビラだろう。

 

 私はどちらだって構わない。

 ビラの心が少しでも軽くなるのなら、ね。

 

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