第32話 休んでられない
私達は水の場所の三階を軽々と超えた。
速さと大きさに慣れたからだろう。
私がなにかをしたわけではないが、無事に突破できて良かった。
と、いうことで私達は今ボスの手前の階にいる。
「さて、どうやって通り抜けようか?」
私はみんなに案を聞くことにした。
今の状況は最悪と言っていいほどだ。
下へと降りる階段の前に、大きなサメが通せんぼをするかのようにいるのだから。
先程苦戦したものがまた出てきた。
しかも、先程よりも大きなサイズ。私はまた冷や汗をかいている。ヴォルフの上に乗っているというのに足が震えてくる。
まだ臆病な私のままだ。怖さは力になるという証明をすると、偉そうに言えないな。
「そうだな。どうしたものか……」
「またあの大きいのですのね……今は幸い見えない位置にいるから来ませんけれど……」
「また来たら大変だよな」
ニコがこくんと頷いた。
私もそう思っていた。
見えないところで話し合いをしている。しかし、今にも襲ってきそうなのだ。
速さと大きさを兼ね備えたサメが襲ってきたら今度こそ私は止まってしまう。
ここから先に行ったとしても、私は動けないかもしれない。怖いんだもの。それでも頑張りたい。今自分にできることをしたい。
私のスキルなら言葉だけでどうにかできるのだから。
「『こっちに来て!』」
私はヴォルフからの言いつけを破り、降りた。そして同時に走り出した。
惹きつけるために。私の走る音がサメに聞こえるように。それはもう必死に走った。
みんなに危害は加えさせない。その気持ちもあった。だが、一つの可能性に賭けたと言った方が正しい。
スキルを使ったことにより私の方へと来てくれた。
スキルが効かなかったらどうしようかと思っていた。しかし、私の方に来て口を大きく開いている。私しか見えていない。これなら思っていた通りにことが進む。
「今だよ!」
私は声を上げた。
その瞬間、ライオスが剣を持っているところが見えた。
「分かっている!」
その剣をサメに振りかざした。
サメは倒れてしまったが、あまり傷はついていないようだ。私のせいで傷がつかなくて良かった。襲われそうにはなったけれど、ダンジョンにいて気が立っているだけだ。
私は動物が傷つくところを見たくない。何度も同じことを言って申し訳ないが。
「セリナ様、ケガは⁈」
ニコが不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ」
私は笑って答えた。
ホッとした顔をしてくれた。
「こんっのバカセリ!二回も言わせんじゃねえよ‼︎自分からわざと降りるとかなにしてやがんだ⁈」
ヴォルフから怒鳴られた。
怒られるだろうとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかった。
「えーと、自分が囮になればみんなが動きやすくなるかな、と」
私は理由を答えた。
今言っても言い訳にしか聞こえないけれど。あの時はそれが最善だと考えたのだ。
「セリナ、次はするな。今回は無事だったが危険な状態になることだってあるのだからな」
「そうです。セリナ様になにかあったら
ライオスとニコにも言われた。
みんなから注意されるとはなあ。いいと思ったのに、みんなからしてみたら全然良くなかったのか。反省しなければならないな。
「うん。次からは気をつけるよ」
気をつけると言うあたりがまたしそうではある。しないって宣言できない。私ならしてしまいそうだから。
まあ、自己犠牲しないようにはしようかな。その度に怒られるのはちょっとね……
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