第4話 狼との出会い
「ねぇ、ラビ。最初はどこに行くの?」
「言ったでしょう?天敵がいるって。そいつに会うわよ」
「天敵なのに?」
「セリは会いたいんでしょう?オオカミに」
狼……それは日本では絶滅危惧種でもう見れない。
昔の記述ではもっふもっふだったとされている。大きく、背中に人を乗せられるほどだったとも。
もふもふが大好きな私がそれに会いたくないわけが、ない!
「会いたい!絶対!」
「なら決まり。あっ、言ってなかったけれど、しばらくは野宿になるからね」
「うん、わかった」
私達は歩き出した。
動物が、もふもふがいる森に向かって。
未知なる道に今進む!
歩き出した、のだけど……
「お腹すいた〜」
私のお腹がギュルギュルとなりだした。
そういえばなにも食べていない。
いや、帰るところだったからそりゃそうなのだけど。帰ったらご飯を食べようと思っていたし、家に食材もあったからどこかに寄る気もなかったんだよなあ。なにか食べたい。
「あら、これぐらいしかないけれど、いる?」
そう言ってラビは私にリンゴを差し出してくれた。なにか食べたいと思っていた私にとってそれは天からの恵みのようなもの。
「いいの⁈」
私は目を輝かせた。
「えぇ」
「ありがとう!」
私はそれを受け取り、そのままかじった。
「んー美味しい!」
「そう、良かったわ。そのリンゴ、うちで作ってるのよ」
「そうなの⁈すごいね!」
このリンゴは程よい甘味で私好みで美味しい。それを家で作っているのだと言うから、すごいことだ。この世界の農業も発展しているのだなあ、と深く感心した。
「よしっ、じゃあ進もう!」
「あら、もういいの?」
「うん、満腹になったから」
「そう。じゃあ行きましょうか」
私はぴょこぴょこ歩くラビについていく。
少し歩くとラビが話し始める。
「おかしいわね?いつもならここら辺にいるはずなんだけど……」
「アオーン!」
狼のような鳴き声が聞こえた。
その瞬間大きな狼が私に噛みつこうとしていた。
「止まって!」
その言葉はとっさに出たものだった。
けれど、狼は止まった。
「くそっ、なんだこれ動かねえ!お前なんかしたのか?」
「えっ、わ、私はなにも?」
「ねぇセリ、そいつなんて言ってるの?私わかんないんだけど……」
なにを言ってるかわからない?
こんなにハッキリ喋っていて、私には全部分かったというのに。
「そういやそうだな。なんでわかんだ?オレ今共通語じゃねえぜ?」
「え?いやいや、私にもわかるんだから共通語?でしょ」
「いんやオレは今オオカミ語だ。なのになんでオレと通じてんだ。お前なにもんだ?」
オオカミは鋭い目をさらに鋭くし、私を見てくる。
私だってわからない。私がなぜオオカミ語とやらを聞き取れているのかも、この世界で自分がなににあたるかなんていうのも。
私は普通の人間なのだから。
「そうだ、私聞いたことがあるの」
ラビが突然話し始めた。聞いたことがある。いったい何を聞いたというのだろうか。
「さっきニホンから来た者については話したわね?」
「うん」
「その者は動物の言語すべてを聞きとることができる。そして、その者が発する言葉には力が宿る」
ここまでの説明で少しわかった。
つまりは……
「私が止めることができたのも?」
「そうよ。さっき『止まって』って言ったでしょう?」
「私にそんな力があるんだ……」
ラビが言ってた伝承でどうやって動物を止めたのかと思ってたけど、そういうことだったのか。動物を操る言葉、か。
言葉というのは本当にすごいものだ。
「ほーん、お前すごい奴なんだな」
「そうみたいだね」
「ちょっとあんたね、セリに噛みつこうとしたことを謝りなさいよ!」
「相変わらずうるせえな。わーったよ!」
オオカミが私の方に向き直した。
表情は分からないが、バツの悪そうな顔をしているように思えた。
「さっきは悪かったな」
「いいよ。でも、一つ頼んでもいいかな?」
「あ?なんだ?」
「もふらせて!」
私がそう言うと、低音で「は?」と言われた。
「だめ?」
「いや、だめじゃねえけど……」
「本当⁈」
だめではないと言われたので、私はもふり始める。
この手触りは最高!
やっぱり犬と似た感じなんだな。
ずっと触っていられるぐらいだ。
私は思う存分もふった。
「はーありがとう!」
オオカミから手を離した。
「お、おう」
変わらず表情はわからないけれど、なんだか疲れてるようだ。
「ヴォルフ、セリはあんな感じだから慣れなさい」
「いつもああなのかよ……」
あんな感じってなんだ?
私はどう思われてるのだろう。変なふうに思われていないのならどう思われていたって構わないのだが。
「そうだ、君ってヴォルフっていうんだね」
「あぁ、お前はセリだったか?」
「うん!もふもふ大好きセリナです‼︎」
自己紹介で、もふもふ大好きって言うのもなんかな……とは思った。本当はもっと他のことを言った方がいいのかもしれない。
けれど、それが私の特徴なのだ!
「じゃあセリでいっか。なぁ、お前らってこれからどこに行こうとしてんだ?」
「どこって、もふもふを探しに森の奥をどんどん進む予定だよ」
「オレもついてっていいか?」
「はぁ⁈なんであんたが⁈」
ラビが大声で苦言を呈した。
ヴォルフはそれに対しこう答える。
「面白そうだから」と。
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