第37話 噂



 状況がわからず、くしゃりと顔を歪ませ見合わす祐真と涼香。

 莉子は後ろ姿からでも、はっきりと緊張しているのが見て取れる。

 彼女たちもまた、あまり友好的ではない様子だった。

 ごくりと喉を鳴らす。

 するとそこへ受付を済ませた紗雪が、こちらの様子を気に掛けてやってくる。


「……どうしたんですか?」

「上田」

「紗雪先輩。……アレを」

「あれは…………」


 紗雪は涼香の示した先を見て、目を丸くしてしばたたかせる。

 眼下で繰り広げられる空気がこの場へと伝播し、緊張の糸が張り巡らされていく。

 そんな中祐真は、この場で莉子の為に出来ることがないか、思い巡らす。

 今から走って現地に駆け付ける?

 窓を開けて話しかける?

 考えは纏まらず、無為に時間だけが過ぎていく。

 皆が焦れている中、不意に目の前の空気が変わった。

 莉子の纏う雰囲気が和らぎ、相対する彼らもたじろいでいる。

 晃成だった。

 やけに明るそうないつもの調子で手を上げながら現れ、莉子の手を取る。

 そして彼女たちに調子よく手を振りながら、去っていく。

 すっかり誰もいなくなった頃、涼香がポツリと呟いた。


「何だったんだろ、アレ。あまりよくない感じだったけど……ゆーくん、何か知ってる?」

「さぁ……俺もここんところずっと、ここに入り浸ってて、晃成も教室じゃいつも通りだったし」

「だよねー。紗雪先輩、何か知ってますか?」


 涼香がそう訊ねると、紗雪は困ったように眉を寄せ、戸惑いを見せる。

 その様子が妙に引っかかり、顔を見合わす祐真と涼香。

 2人の視線を受けた紗雪は、ウッと一瞬たじろぐものの、とつとつと躊躇いがちに口を開く。


「その、あくまでなんですけど、最近2年によく来る1年の小柄な女の子に、カノジョ持ちの人がちょっかいかけて、それでカノジョさんの方が怒ってどうとか……」

「それって油長が……」

「わ、わかりませんっ。あくまでクラスの噂をちょっと耳にしたくらいなので」

「りっちゃん……」


 あくまでを強調する紗雪。

 しかし先ほどの光景が、如実に噂が真実だと示していて。

 神妙な顔を見合わせ、こくりと頷く祐真と涼香。


「俺、放課後にでも晃成と色々話をしてみてるよ」

「ん、じゃあ、あたしもりっちゃんと話す。ったく、しばらく話していないうちにそんなことになってるなんて、思いもしなかったってーの!」

「ったく、晃成も知ってるなら何か言えよな」

「ホントだよ」


 そう言ってニッと不敵な笑みを浮かべた祐真と涼香は、互いの拳をコツンとぶつけ合うのだった。




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