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第29話 傷心追い出し会
週末の昼下がり、繁華街のとあるビルのカラフルな看板が目印の店。
祐真、涼香、晃成の3人は目の前で崩しても崩してもなお悠々とそびえる甘味の山を前に青褪めた表情で、胸から込み上げてくるものを必死で堪えてた。
「うっぷ……バターが、クリームが、はちみつが、こうドスンと胃袋に響く重さ……」
「オレ、これから暑くなる季節だっていうのに、アイスがもう見たくなくなってきた……甘いものは好きな方だったのにな……」
「あ、あはは……あたしもちょっとこの量は予想外だったかな……」
本日、晃成の傷心追い出し会としてやってきたのは、先日涼香が興味を示していたハニートーストの店だった。お昼に何を食べようかと話が出た時、今まで食べたことないからとやってきた形だ。
最初、ケーキやデザートサンドイッチを食べるような心づもりでやってきたものの、その見通しは非常に甘かった。まさに文字通りに。
一斤まるまるの食パンの上に、これでもかと盛られたアイスを大量の生クリームでデコレートされた上、たっぷりのはちみつとチョコレートソースが、受け皿に池を作るくらい掛けられている。そこへ気合を入れ過ぎたシュガーパウダーが厚化粧。
中身も中身で、溶けたバターと練乳がたっぷりと沁み込まれており、ふにゃふにゃに蕩けている。
正に甘味の暴力。
見ているだけで胸焼けしてくる逸品。
真実、申し訳程度に添えられているバナナやイチゴが甘くないものと認識してしまうのを通り越して、砂漠で見つけたオアシスの様に感じてしまうほどに。
覚悟を決め力を合わせつつも、この甘味の塊を半分ほど切り崩したところで3人が死屍累々の体を見せている中、莉子だけが幸せそうに頬を緩めにこにことハニートーストと頬張り続けていた。
「ん~~~~、おいし! 幸せ! あたし一度、これでもかっていうほど生クリームに溺れてみたかったんですよね~っ」
「お、おぅ。それならオレの分も食っていいぞ。莉子!」
「で、できれば俺の分も頼む、油長」
「り、りっちゃん、あたしの分もよかったらどうぞ……」
「えぇぇ~、好きだとは言いましたけど、そんな皆の分もだなんて、悪いですよぅ」
「「「全然、そんなことないから!」」」
思わず真剣な声を重ね、遠慮の言葉を上げつつも頬を綻ばす莉子に戦慄する面々。
ついでとばかりに少し悪いと思いつつも、ついでとばかりに他の甘味も押し付ける。
それでも店を出る頃にはすっかりお腹を抱え、憔悴しきりつつも、何かをやり遂げた表情の祐真、涼香、晃成。そして幸せいっぱいな笑みを浮かべ、大満足な様子の莉子という姿が作られていた。
「あ、あたしもう当分甘いモノはいいかな……」
「な、なんとか食べきれたけど……」
「オレも……あぁ、なんでお金を払ってまでこんな苦しい思いをしてんだろうな……」
顔に陰を落としつつも、互いの健闘をたたえ合う隣で、近くの店のショーケースを見た莉子がはしゃいだ声を上げた。
「わぁ、特大ジャンボスカイツリーパフェだって! 気になりません、これ!?」
「「「っ!?」」」
信じられない生き物を見る目で顔を見合わす祐真と倉本兄妹。
晃成は頬を引き攣らせながら、諭すように言う。
「ま、まぁちょっと気になるけどさ、今は腹いっぱいだし、食べ物のことを考えるのはちょっと」
「え~、そうですか? わたし既に別腹モードというか、少し物足りなくて、さっきとは違う系統のものを口にしたいんですよね~」
「っ!? こ、今度にしよう、うん! ほら、次何をするか話そうぜ!」
「ん~、そうですね。パフェは次の楽しみにしときましょ」
「あ、あぁ」
必死に話題を逸らす晃成。
その様子を見ていた祐真と涼香は、これは見逃せないとばかりに引き締めた表情で頷き合い、それぞれ晃成の肩を叩く。
「お兄ちゃん、その時はりっちゃんと2人でどうぞ、どうぞ!」
「あぁ、俺たち甘いものはそれほど得意じゃないしな」
「す、涼香!? 祐真まで!」
「えぇ、晃成先輩と2人でですか~? まぁ別に? 私はそれでもいいですけど?」
今日のハニートーストで懲りた祐真と涼香は、巻き込まれては堪らないと予防線を張る。
裏切られたとばかりの目を向ける晃成。口では少し躊躇う素振りを魅せつつも、満更でもなさそうに身を捩らす莉子。
やがて、4人の間から笑い声が上がった。
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