第21話 好きになるって、何だろうね?
莉子だった。
祐真と涼香はこんなところで意外とばかりに目をぱちくりとさせ、英子は思いがけないものを見てしまったと目を大きく見開き、動揺から瞳を揺らす。
そんな莉子の意外な反応に、どうしたことかと首を傾げていると、彼女の視線が祐真と涼香の間で繋がれている手だと気付く。しかも今、涼香はデート用といっても差し支えのない、これまで全然着たことがないようなオシャレなワンピース姿。
この状況をどう捉えられるかだなんて、一目瞭然。
慌てて手を離す祐真と涼香。
莉子は顔をみるみる真っ赤に染め上げ、捲し立てるように言う。
「わ、わ、私その、まさか2人がそういう関係だったとか気付かなくて……!」
「待て油長、お前は勘違いしている!」
「そ、そうだよりっちゃん、これにはワケがあって!」
「わかってる、わかってます! 昔から2人共仲良かったし、こないだちょっと拗れてる間にすずちゃん急にイメチェンするわ、その河合先輩も釣られて髪染めてくるわ、何かあるかなーって思ってたけど、そのいつも通りで気付かなかったけど……言ってくれればこれからは気を付けるので……っ!」
「油長っ!」
「りっちゃん!」
邪魔しちゃ悪いとばかりに、回れ右をする莉子。
慌てて彼女の肩を掴む祐真に、手を掴む涼香。
ぐるぐる目を回しながら「いやいや、独り身にお2人の姿は眩しすぎるので!」といってその場を逃げ去ろうとする莉子を必死に宥めすかしながら、事情を説明する。
涼香が今日のグルチャの晃成のオシャレした姿に感化され、一念発起して服を買いに来て、祐真はその付き添いだということ。
そして先ほどのショップで店員にカップルと間違われ、じゃあ本当にカップルに慣れるかどうか試してみようということで、手を繋いでいた時に莉子と出会ったということ。
懇々と、それ以上の他意はないないのだと何度も、何度も。
もっとも本来の目的はラブホテルであり、でっち上げといえばでっち上げなのだが。
やがて落ち着いてきた莉子であるが、しかしその表情は訝し気なものへと変わっていく。
「……あくまで実験的に手を繋いでいただけ、と」
「そうそう! まぁ結局子供の頃繋いでた時とかと変わんないなーって。ね、ゆーくん?」
「あぁ、こう繋いでるうちにドキドキするかなぁ~って思ってたけど全然そんな気配がなくて、そのうち離すタイミングを見失っちゃって、それで」
「はぁ~~~~、そうですか」
「うんうん、そうなの!」
「わかってくれたか、油長!」
これ見よがしな呆れたため息を吐く莉子。ジト目でいかにも半信半疑といった様子。
会話が空滑りしているような感覚。
祐真と涼香にも、半ば苦しい言い訳だという自覚はあった。
元から慣れ親しんだ間柄、端から見ればそういう勘違いをされても仕方ないだろう。初対面である店員にさえ、そう思われていたのだ。
莉子は目を細めまじまじと祐真と涼香を見つめ、少し投げやり気味に口を開く。
「もういっそ2人共、付き合っちゃえばどうです?」
「それは……」
言葉に詰まる祐真。
涼香とも顔を見合わせ苦笑い。
好きかどうかを問われれば、好きと言い切れるだろう。だけど、それは恋愛感情ではない。それは言い切れる。
少なくとも、苦い思い出の底にある、あの時感じた胸の高鳴りや相手の些細なことでの一喜一憂する心の忙しなさを、涼香に感じたことはないのだから。
涼香と付き合うということは、彼女の処女を奪った時に考えなかったわけでもない。
しかしまことに身勝手ながら、今以上の特別な関係にはなれそうにないというのが結論だった。だから恋人になるというのが考えられなくて。
その思いはこっそり身体を重ねるようになってから、より深くなっている。
すると涼香は祐真の心境を代弁するかのように、莉子に訊ね返した。
「りっちゃん、人を好きになるって何だろうね?」
何とも判断に困る、困ったような、縋る様な声色だった。
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