第12話 ヤリなおし



 午後の授業中、ずっと涼香のことを思い巡らしているうちに放課後になった。

 結局いくら考えても何もわからないという結論に至る。

 だからこそ、やはり話をしなければ。

 うじうじする時間は終わり。

 覚悟を決め、晃成からの「なぁ、放課後なんだけど――」という問いかけに「用事があるから!」と返し、すぐさま1年の涼香たちの教室へ。

 すると丁度、そわそわした様子で教室から出てくる莉子がいた。


「油長、涼香は?」

「すずちゃん? 何か用事あるって、すぐに出て行きましたよ」

「え?」


 今日に限って涼香が居ない。

 予想外の展開に思考が一瞬固まってしまう。


「あ、先輩はこの後、一緒に晃成先輩の――」

「そっか、ありがと!」

「――河合先輩!?」


 祐真は何かを言いかけた莉子の言葉を背に、その場から駆け出し学校を飛び出す。

 そして涼香がよく通う本屋、雑貨店、お気に入りのシュークリーム屋などよく行く場所を探すも、見つからない。一応とばかりに倉本家に立ち寄るも、まだ帰宅していなかった。

 もしかしたら、今朝までの自分のように避けられているのだろうか?

 そう思うと自分勝手ながらズキリと胸が痛み、会いたいのに会えないことに悶々とした思いを募らせていく。

 やがて心当たりをあらかた探し終え、明日の朝に掴まえようと切り替えて帰宅する。

 するとどうしたわけか、家の鍵が開いていた。


「……あれ?」


 思わず困惑の声が漏れる。

 両親は今日も居ないはずだ。

 それに帰って来るにしても、こんなに早い時間ではないだろう。

 祐真が訝しみながら玄関を開けると、どこか見覚えのあるローファーがあった。


「…………っ」


 心臓が一気に早鐘を打つ。

 まさか、と逸る気持ちを押さえながら階段を上がり、自分の部屋へ。


「あ、おかえりゆーくん。随分遅かったね」


 果たしてそこには涼香が居た。こちらに気付くとなんてことない風に挨拶をしてくる。

 靴下を脱ぎブレザーもその辺に放り投げ、ごろりと祐真のベッドで寝転びながら漫画を読んでいる。いつも・・・と、同じように。

 しかしいつもと違って短くされたスカートは際どいところまで捲れており、足の付け根も見えかねない眩しい太ももに、ごくりと喉を鳴らす。


「何、で……」

「あ、鍵? ほら、カーネーションの鉢植えの底の。昔から隠し場所変わってなかったもんで。ていうかよく考えると不用心だよねー」


 そう言って涼香はケラケラと笑いながら片手を振る。

 しかし祐真はそこで言葉につまり、視線が絡むことしばし。

 部屋はあの時と同じ茜色に染められている。

 ともすれば湧き起こりそうになる不埒な感情を呑み下す様に「んっ」と喉を鳴らし、鞄をゆっくりと床に下ろし、一歩前へ。


「その、しばらく避けてて悪かった」

「ホントだよ。さすがにあたしもちょっと傷付いたし」

「色々衝撃的過ぎて、混乱しちゃって、何を言っていいか分かんなくなって……」

「正直さ、1度したら2回も3回も同じだし、何度も求められるかと思ってた」

「それは……実際求めそうだったから、頭が冷えるまで距離を置いてたんだよ」

「……………………へ?」


 祐真が気恥ずかしそうに告解すれば、涼香は素っ頓狂な声を上げた。

 互いに目をしばたたかせることしばし。


「……あはっ、あははははははははははははっ!」

「す、涼香!?」


 やがて涼香は、堪らないとばかりにお腹を抱えて笑い出した。そして祐真の傍にやってきては、バシバシと肩を叩く。

 いきなりの涼香の行動に、どうしていいか分からずオロオロしてしまう祐真。

 涼香は目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭いながら、少し眉を寄せ、困った様に囁く。


「あーよかった。今までのあたしってさ、確かに見た目が地味でアレだしガサツだし、抱いたこと後悔してるのかなぁっておもってさ。だからこうしてイメチェンしてみたわけで」

「その変身ぶりにはびっくりしたよ。きっと涼香じゃなかったら話しかけるのも気後れするくらい、綺麗になったし。……まぁ今もちょっと尻込みしてるけど」


 そう言って祐真がついっと視線をずらすと、涼香は目をぱちくりさせた後、妖し気な笑みを浮かべ首に手を回しながら身を寄せてくる」


「ふぅん。でもま、ゆーくんにそう褒めてもらうのって新鮮。悪くないね」

「お、おい、涼香! ちょっと離れてくれ!」

「どうして?」

「ど、どうしてって……」


 押し付けられた柔らかな身体、可愛らしくなったかんばせに立ち上る甘い匂いに、頭の中が涼香で浸食されていく。

 祐真はどこか切羽詰まった声色で涼香を窘めるも、どこ吹く風。それどころか機嫌良さそうに足を絡めてさえくる。

 まるで誘うかのようなアプローチに、意識はあっという間に沸騰寸前になってしまう。

 僅かに残った頭の中の冷静な部分が、あの時と同じように暴発するのは時間の問題と告げている。

 それを必死に抑えているのは、脳裏に強く残る本能のままに身体を貪った後の涼香の姿と、『ゆーくんのケダモノ、あたし痛いって言ったのに……』という言葉。

 だからこの状況が堪らない祐真は、理性を総動員して涼香の華奢な肩を掴み、切羽詰まった声色で懇願するように言う。


「言っただろ、避けてた理由を。今の涼香はあまりに魅力的過ぎる。このままじゃ、あの時みたいに暴走しかけない」

「それは……困るね。あの時のゆーくん、ホント余裕も理性も無くしちゃってたから」

「なら……っ」


 しかし涼香は困った顔でそんなことを呟きながらも、離れる気配はない。

 むしろ悩まし気な表情が余計に獣欲を刺激する。

 意識してこれをしているとしたら、とんだ罰だろう。

 祐真が本能と理性の狭間でほとほと困り果てていると、ふいに涼香がスカートのポケットからあるものを取り出し、握らせる。

 それを何かを――コンドーム、避妊具だと認識した祐真は目を見開き、涼香ははにかみながら囁く。


「あたしさ、今日はあの日のやり直しに来たんだ」

「涼、香……」

「ゆーくんとのアレがさ、ただ痛かっただけとか嫌。ね、上書きしてよ」

「……わかった」


 少し拗ねたように甘えた声で、そんな風におねだりされれば、荒ぶる劣情はそのままに、不思議なことにスッと頭の芯が冷えて行く。

 あぁ、あの時はそんなリスクまで想像の埒外で本当、涼香のことを考えていなかった。

 やり直しという機会をくれるというのなら、全霊で応えてあげたいと思う。

 潤んだ瞳が伏せられると同時に、唇と唇を軽く合わせる。


「ん……」

「んちゅ……んっ……」


 啄むだけのキスを合図に祐真はゆっくりと涼香をベッドに押し倒し、今度は衣服も1枚ずつ脱がしていき、露わになった肌と肌を直接合わせる。

 祐真は細心の注意を払って丁寧に、丁寧に抱き――そして涼香は乱れに乱れた。



※※※※※※


次回、2章エピローグ

いかがでしたでしょう?

色々語りたいことはありましたが、作中に込めました、そしてここからの作中にも込めています。


これからどうなるんだ!? 主人公何やってんだよ(でも続きは見せろよ!) と思っていただけたら、応援の気持ちを込めて☆☆☆を★★★に塗りつぶしてくれると嬉しいです!


にゃーん!

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