第4話 キスって気持ちいいって言うけど、ホントかな?
2人して雑誌のキス特集を眺める。
隣で密着している祐真もそれに倣う。
キスに至るまでの雰囲気作りやタイミング、サインの出し方を見ていると、ふいに手の甲に涼香の指先が触れた。
驚き、ビクリと肩をわずかに跳ねさせた祐真は、彼女を見る。
少しばかり瞳を潤ませ好奇の色を湛えた涼香は、悪戯を提案するかのように囁く。
「ホントかな?」
「どうだろ」
「試してみない?」
「い、いやいやそれは……さすがに……」
いきなりの涼香の提案に驚く祐真。
いくら涼香の好奇心が強いとはいえ、さすがにほいほいとするようなことではない。
「いいじゃん、どうせうちら初めてってわけじゃないし」
「それは……そうだけど、あれは子供の頃に試しで――んっ!?」
「ん……ちゅっ」
さすがに小さい頃とは違うのだからと、その提案にまごついていると、ふいに唇を啄まれた。
祐真は目を大きく見開けば、涼香はただ怪しげな笑みを浮かべ、ごちそうさまとばかりに唇を舌でぺろりと舐める。
ぞくり、と祐真の背筋が震えた。
「しちゃったね」
「……涼香」
「っていうか今のキスっていうより、歯が当たったって感じ。ね、もっかい」
「んっ……」
涼香は感触を確かめるように、再度祐真の唇を啄む。
そして唇を離し、眉を寄せて呟く。
「なんか、柔らかい? 不思議な感触。気持ちがいいってもの――」
なんだか頭がくらくらしていた。
何かのスイッチをが入れられてしまった祐真は、わずかに手の甲に触れていた喋っている途中の涼香の手を取り、逃さないとばかりに指を絡め、今度は自分から唇を押し付けた。
「んちゅぅ、んっ…………」
唇でちゅっと吸い付きながら、はむはむとぷっくりした涼香の下唇を味わう。
されている時はわからなかったが、こうしてみると涼香の唇は随分と柔らかい。
自分とは違う異性の、女の子の唇だった。
幼い頃、好奇心からしたキスとは何もかも違った。
まるで取り憑かれたように夢中になって、何度も呼吸も忘れて啄む。
やがて酸素を求めて身を離せば、互いの喘ぐような荒い息が部屋に響く。
「……もぅ、いきなりなんだから。で、どう? 気持ちいい?」
「……さぁ、今一つよくわからん」
「……そっか。けど、なんだか熱くなっちゃったね」
「俺も」
「やっぱ、気持ちいいのはディープキスなのかな? 舌を絡めるやつ」
「じゃないのか? ……どうするのか、わからないけど」
「……雑誌によると、相手の唇の少し内側にそっと舌を入れる、だってさ。やってみる?」
「おぅ、やってみる……んっ」
「んんっ……んっ!?」
にゅるりと舌を差し込んだ瞬間、涼香はビクリと肩を跳ねさせ目を大きくした。
一瞬その反応にたじろぐものの、恐る恐る歯茎や頬の内側をなぞれば、涼香は次第にとろんと目を蕩けさせていく。
舌先で歯をコンコンとノックすれば僅かに開き、繋いだ手をぎゅっと握ってきたのを合図に、祐真は彼女の口腔内へと侵入を果たす。
「……ぁ」
舌先と舌先がぶつかると共に、涼香の口から何とも艶めいた声が漏れた。聞いたことのない声だった。
祐真の中に奇妙な征服欲めいたものが埋まれ、目の前の少女を蹂躙したいという嗜虐的な欲求が生まれ、ただひたすらに舌先を絡め合う。
「ん……んっ」
「ちゅっ……ん……」
身体はこれ以上なく熱を持ち、まるで溶け合い1つに合わさっていくかの様。
部屋にはただぴちゃぴちゃと淫靡な水音と、喘ぐような荒い息が響く。他のことは何も考えらなかった。
「んんっ!?」
「ぷはっ!」
その時、涼香のスマホが通知を告げる。弾かれたように互いの身を離す2人。
「だ、誰から?」
「り、りっちゃんから! 何かシュークリームがどうこうって」
「そ、そっか」
「う、うん」
「……」
「……」
会話はそこで終わり何とも気まずくももどかしい空気が流れる。
先ほどは完全に空気に呑み込まれてしまっていた。
そして身体はまだ熱を持ったまま。明らかに先ほどの続きを求めている。
ちらちらと互いの上気した顔を窺い合う。
「……さっきの凄かったね」
「……あぁ、なんかこう、すごかった」
「ゆーくん、気持ちよかった?」
「さぁ、それがわかる前に途中で終わったというか」
「雑誌だとあれ以上のこと、書いてあったね」
「抱き合ってとか、舌を激しく絡めてとかあったな」
「あはは、試すにしても誰かに見つかったらアレだなぁ」
「あぁ、晃成の部屋、鍵壊れてるし」
「……」
「……」
「じゃあ、さ……あたしの部屋、来る?」
「…………おぅ」
その涼香の誘いに、祐真は頷くことしかできなかった。
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次回、12時更新です
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