Ep28 抱きまくらになった少女

 明らかに友好的な態度ではなかった。宮崎はぎょっとした表情になるが、それ以上なにかを言うことはない。


「こちら側としてもミスを認めているんです。貴方たちがやるべきことは、我々に非友好的な存在を潰すことだけ。お分かりですか?」

「それってゲーム世界の中だけなんスか?」山本が切り込む。

「いえ? 我々の予測では、これから現実世界にもパクスコインを狙う連中が現れるものだと」

「それに加えて私の“ギア”が悪さすると。あのゲームをプレイしたことがあれば、私の『ザ・ミラクル』に引っ張られて自らもスキルを使うことができますもんね」

「そういうことです」


 淡白な態度であった。釈然としないところも多いが、ここでなにもしなければ前へは進めない。


「分かりました。その協定、受けましょう」


 麻希と宮崎、麻友の3人は創麗との取引に合意した。


 *


 宮崎碧衣はハンターという職業について記された紙をしつこすぎるほどながめていた。一方佐野麻希は疲れからか、自室のベッドで寝転がっていた。


「というかさぁ、なんで宮崎は私の部屋に住んでるの? 空き部屋あるのに」

「ここが一番落ち着くからかなぁ~」メガネをかけて凝視していた。

「ふーん。できればひとりの時間ほしいけどなあ」

「うち、迷惑だった?」

「や。そういうわけじゃない。けど、もう宮崎といっしょに暮らす意味もないんだなぁって」

「確かに、残念だねぇ」

「そりゃもちろん」


 そんな会話を交わし、麻希はさっさと寝てしまおうと目をつむった頃であった。


「佐野、うちら創麗に飼い殺されるみたいだよ」

「んん? なんの話?」

「ほら」


 両目をこすりながら、宮崎が指差す文面に目を通す。


「なになに……。なお、この契約は創麗グループ及び当事者の同意がない限り解除できない、そりゃそうでしょ」

「創麗がおめーを手放すと思うか?」

「あ、確かに」

「惚けてるなぁ……。まあ、佐野がそう判断したんなら仕方ない」

「……。怒ってるの?」

「こんなことで怒ってたら疲れがとれないよ」


 宮崎はシングルベッドへ当然のごとく入り込み、佐野へ手を差し出す。


「だけど、なにかお詫びくらいはしてほしい。というわけで、佐野さん。添い寝をお願いします!!」

「それだけで良いの?」

「柔らかい身体の暖かさを味わえればそれで良いさ! さあ、来い!」


 怪訝そうな表情と真っ赤な耳と頬を丸出しにしながら、佐野麻希は宮崎碧衣の元へ入り込んでいくのだった。


 *


「……。やっぱり寝起きは口の中が最悪だ」


 麻希と宮崎はロングスリーパーだ。きょうも10時間寝て、宮崎はそれでも起きる気配すらない。彼女の拘束を解いて、麻希は洗面所へ向かっていく。


「やあ」


 道中、麻希は妹の麻友と同学年くらいの少年を見つけたので簡素な挨拶をしておく。

 が、ここで佐野麻希は違和感に気がつく。


「君、誰?」

「え。あ、その」

「まさか不法侵入?」

「いや、違います。その、創麗の」

「創麗?」


 少年は創麗グループの社員証を見せてきた。

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