Ep27 協定成立なるか
「いや、2歳しか離れてないからね?」
「う~ん。うちだったら佐野の存在にドキドキしちゃうけどねえ」
まあ、友だちの兄だと思っていた存在が姉になって現れたらざわめく者がいてもオカシクない。ただそれは、山本知恩という人物が常識的である場合にしか通用しない。
「あ、お姉さん方。そこトラップ仕掛けまくってるから要注意」
「なんのトラップ?」
「簡易的なブービートラップかな~」
「良いもの用意してきたね」
「即席で作れるしね」
山本はウインクした。麻希は臆することなく、ドアを開けずにトラップを解除する。
「手慣れてるね」
「ゲーム通りにやれば良いからね~。VRMMO、おすすめだよ」
「おれぁ現実楽しいし興味ないや」
「だろうね。そういう顔してる」
あまりにも普通に会話する麻希と山本へなにか思うことがあるのか、ここで宮崎碧衣が亂入してきた。
「佐野、うちこの子怖い……」
「なんで?」
「だってヒトの家に手製の爆弾つけるんだよっ!? 怖いに決まってるじゃん!」
「すぐ解除できるものだし、客人も来る。慌ててたら身ぐるみ剥がされちゃうよ」
麻希は服をパンパン叩き、ゲーム世界でついた砂ホコリをはらうのだった。
*
ついに客が来た。佐野家は一瞬騒然となったが、すぐに麻希がインターホン越しに要件を尋ねる。
「どなたですか?」
「創麗グループの者です」
宮崎と麻友は目を合わせた。野太い男の声は、確かにこの生活を終わらせる転機になってくれるはずだと。
「……。入ってください」
壮年期の男性はやや散らかった佐野家のリビングに座る。静寂の緊張が流れる中、麻希が切り出した。
「単刀直入に聞きましょう。創麗の指示に従えば、あのふざけた懸賞金をチャラにしてくれると?」
「まあ、そうなりますな」
男はメガネを拭き、淡々とした態度で答えた。
「ただ協定を結ぶかどうかは互いの了承次第。創麗グループの求める条件はいくつかありますが、ひとつずつ説明していきましょう」
「ええ。お願いします」
「まず、貴方がたには我が社所属のハンターになってもらいます」
「ハンター?」麻友が尋ねる。
「ええ。現実ともうひとつの現実を守る存在です。そしてもうひとつ。『ザ・ミラクル』の研究に手を貸して頂きたい」
「アンタらが提供したモンなのに手伝うのかよ」山本は怪訝な顔になる。
「我々としてもリリースする予定がなかったものですから」
とはいえ、法外な要求をされているわけではない。これで一連の生活が終わるのならば安すぎるくらいだ。
そう思い、麻希はサインかハンコかなにかで協定をまとめようとした。
「ねえ、ハンターってなに?」
が、宮崎碧衣は説明不足を見逃さなかった。
「その概念、リリース前の説明には一切記載してなかったよね? アンタら、うちらのことをとんでもない陰謀に巻き込もうとしてるんじゃないの?」
「だとしたら?」
男はメガネをあげた。
「貴方がたはたった4人。対して創麗グループは数万人。まともにやり合おうと思ったら、火を見るよりも明らかでしょう? それを我々は譲歩してあげているんです。貴方たちが有望だから。分かりますか?」
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