Ep25 創麗側につけ
「はあ、はあ……。さて、戦後処理だね」
草や木に縛られ、少年に対抗する術はない。だが麻希もだいぶ消耗している。『クイック・タイム』と『虚空夜叉』の重ね合わせなど身体が持ってくれるわけもない。
「君、どういう目的で私らに突っかかってきたの? 非公開セッションに入り込んでくるあたり殺意は高そうだけど」
「……。ぼくは創麗グループの最高幹部の子どもなんですよ」
「ん?」
「父の決めた枠組みが気に食わず成果物を求めた。別に貴方たちへは恨みなんてないですし、ただ父に見せつけるためだけに殺そうとしたんです」
この会話で引っかかる要素はふたつ。麻希は咳払いして、冷静に詰めていく。
「まず、君は創麗グループの関係者の子どもなの?」
「恨みしかないですが、そうです」
「んで、なんでこの世界での死が現実ともリンクするの?」
「そりゃ『ザ・ミラクル』なんて装着してるからですよ」
淡白な態度であった。麻希は溜め息をつき、少年を拘束していた草木を取り除く。
「え? 解除してくれるんですか?」
「元々痛めつけるつもりもないしね」
「では、そんな貴方に朗報です」
少年はアルビノの少女佐野麻希の赤い目をじっくり見据えながら言う。
「創麗側につくつもりはありませんか?」
口をあんぐり開ける麻希。が、やがて少女は言う。
「いやいや、君創麗にいる父親が嫌いなんだよね? だったら父のいる企業なんて関わりたくもないでしょ?」
「世の中利用できるものは全部使わなきゃ駄目でしょ。大丈夫。父の管轄とは違うところだから☆」
「……。それに入ったら懸賞金生活も解除される?」
「交渉次第だと思いますけど、だいたいの場合解放されるかと」
こんな千載一遇の大好機はないと、麻希はこの話を受けることにした。
「じゃ、じゃあ、仮交渉して良い?」
*
佐野麻希は強力な交渉を終えて現実世界へと戻ってきた。
「お兄ちゃん、おかえり~」
「お邪魔してま~す」
佐野麻友と山本知恩がそこにいた。ツートンカラーの少女と黒髪ロングヘアの少年。部屋の至るところに防犯対策が施されており、ろくに身動きもとれない。
「ああ、ようこそ。宮崎は?」
「え? ゲーム内で会ってないの?」
「会ったには会ったけど」
「なんか危険な匂いしないッスか?」
山本の言う通りだと、麻希はその場から動くことなく“ニュー・フロンティア”の世界に入ろうとする。
「すげっ。こんなので入れるんだ」
「ろくでもないよ。ゲームが悪いのかも知れないけど」
そんなふたりの声もあっという間に聞こえなくなり、麻希はもうひとつの現実に訪れた。
『リアルフレンド:宮崎碧衣のライフが20パーセント未満だ!!』
通知がやってきた。麻希は思わず声を漏らす。
「嘘っ、宮崎のライフが20パーセント未満? そんなバカなことあるのかよ……」
ロケット・ランチャーを取り出し目の前に広がる戦場へ視線を合わせた麻希。あの宮崎碧衣でもうまくいかないのであれば、次は佐野麻希がどうにかする番だ。
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