Ep24 勝利の海
さほど身長の高くない少年の半分ほどを占めるライトマシンガンの銃口が、アルビノの少女麻希に向けられる。
「危ないなぁ!! ゲームの中とはいえ本気で殺そうとするなんて!」
「貴方はふたつ勘違いしてる」
撃たれてたまるかと距離を遠ざけた麻希の動きを読んでいたかのように、少年は回避先に銃弾を浴びせさせる。
「まずこのゲームはクライムアクションゲーだ。殺すか殺されるか。そしてもうひとつ。貴方のこの世界での死は現実での死を意味する!! それが『ザ・ミラクル』!! 奇跡を無理やり現実へ持ち帰る力!! そんなうまい話はないんですよ!!」
多少被弾してしまった麻希だが、数発食らったくらいで行動不能になることもない。彼女は地面を踏みしめ、青い黒髪の少年を睨む。
「うおおおおおおおおおおッ!!」
麻希は叫んだ。そして地面を蹴り上げ、瓦礫の山を生み出した。それらはただ少年を撲殺するために台風のごとく吹き荒れていく。
「死が目前に迫ってると知って焦り始めましたか……!! しかしもう遅い。なぜならば──」
瓦礫の台風を少年は触れもせず分解する。大量のコンクリートが力なく空を舞う頃、少年は麻希に向かって間合いを詰めていた。
「ぼくは負けられないから」
「──ッ!!」
わずかに笑みを浮かべた少年は、容赦なく麻希の腹部に拳をにじませた。明らかに中1くらいのアバターのそれではない威力の前に、麻希の意識は飛かける。
(クソ……。こんなのってバグかなにかみたいなものじゃないか。結局、不幸に苛なまれながら殺られてくのか?)
それでも、麻希は剥いていた白目を元に戻し言う。
「……それだけかよ。近接戦闘仕掛けるのならもうすこし高威力じゃないとな?」
「この後に及んで強がりですか……!!」
「強がりじゃないさ。ただ、勝ち筋が見えたと宣言しておこうと思ってね」
佐野麻希が保有する逆転への切り札はふたつ。『クイック・タイム』と『虚空夜叉』だ。『ザ・ミラクル』が現状呪いの装備にしかなっていない以上、このふたつを主軸に考えていくべきだろう。
『クイック・タイム』は移動速度を大幅にあげる。3次元的な空間移動をも可能にするほどだ。
『虚空夜叉』は自然を操る。水や草など。それらが多い場所に行けば行くほど有利だ。
と、なれば、麻希は手を動かし『クイック・タイム』を起動するほかないだろう。
「さあ!! 捕まえられるかな!?」
「悪あがきを!!」
このマップ横浜市は麻希の地元だ。ならば自然広がる公園のひとつやふたつくらい知っている。
問題はそこまで『クイック・タイム』が持つかどうかだが、最初この“ギア”を使ったときと違い麻希の正気度は上がっている。多少の無茶には耐えられるのだ。
「だいぶ走ったな……。というか地面蹴りまくった」
これでも背後には少年がいる。彼を褒め称えるしかない。
だが、これから起こることは虐殺である。
「ね、なんでこんなところに誘導したか分かる?」
「自然公園……。まさかッ!!」
「そのまさか、だよ☆」
愛らしい表情を浮かべ、草木に少年は縛られるのだった。
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