EP23 負けられない

 1台の白い戦闘機がミサイルを飛ばしてきた。2発のそれは麻希と宮崎に凄まじい勢いで向かってくる。


「このサーバー弱すぎるだろ!! あれ、明らかにヒト乗ってたよね!?」

「うちらをPKすれば1億円だよ? そこをついてくる連中もいるに決まってる。まあ……」


 されど、宮崎碧衣は不敵に笑う。刹那、彼女は地面を蹴り上げて空へ舞い上がった。ロケット・ランチャーを構えている宮崎は、その力をもって場を制圧しようという考えだ。


「うちの偏差撃ち能力を舐めないでよね! ゲーム内の戦闘機くらい通常のランチャーで撃破してやんよ!!」


 宮崎が四方八方へ向けてロケットを撃つ頃、麻希は“デバイス”を取り出しながら横浜ランドマークタワーへと駆け出していた。


「PKされたらいままでの苦労が全部水の泡だ……!! それに、どこかのラノベみたいにゲーム内での死が現実と直結してる可能性だってあるってのに」


 麻希は走りながらも、状況を整理する。

 まず、現実世界を模したマップで様々なプログラム的不具合が起きているのは理解した。ここでひとつ気になるのは、いくら非現実とはいえこんなに暴れておいて現実へ影響がないのか、というところである。

 麻希の能力がゲーム内での見た目・能力を現実へも引き継げる、というインチキじみたいものである以上、“ニュー・フロンティア”の制作者たちはこのゲームになにかしらの仕掛けを施しているはずなのだ。


「現実にも非現実にも逃げ場がない。このままじゃみんな衰弱してくのが目に見えてる。でも、どうすれば……」


 アルビノの少女は弱々しくつぶやいた。

 そんな少女は誰かの腕を眼前に捉える。


「いや~惜しかったですね~」

「……誰だ」

「貴方と敵対関係にある、とだけ伝えておきましょう」


 麻希は即座に『虚空夜叉』を呼び出すために腕を動かす。自然界の水や草木を操る、という能力は戦闘向きでないだろうし、“ニュー・フロンティア”自体自然要素が少ないというデバフを抱えるものの、やるしかないと麻希は近くの噴水を操る。


 が、通常サイズの噴水がひっくり返ったような水量も少年のスキンの敵性には意味をなさなかった。彼はサイコキネシスのごとく降りかかる水を硬直させ、そのまま噴水の中に戻してしまったのである。


「『虚空夜叉』はこの場面じゃ活きませんよ? やっぱり宮崎碧衣を引き離したのは正解だった」

「なるほど。宮崎よりも私のほうが下手だと言いたいわけか」

「いやぁ、そうは言ってませんよ? こちらが言いたいのは……」


 やや青みがかった黒髪の少年は、犬歯を見せるほど笑った。


「貴方たちはゲーマーとして厄介過ぎる。本来実装するつもりのなかったアイテムを手にする豪運しかり、両方の現実で懸賞金を懸けられてもこんにちまで生き残る周到さしかり……創麗側としては厄介なんて次元じゃない」


 瞬間、その少年は手元に軽機関銃を持った。


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