Ep21 地元遊び

 そんな妹のつぶやきなどつゆ知らず、麻希と宮崎は“ニュー・フロンティア”の追加マップ横浜市のみなとみらいでリスポーンするのだった。


「うわ、地元じゃん」

「まあ、広義の地元ではあるか」


 ふたりは横浜生まれの横浜育ち。これには無茶な外出禁止で冷めきっていたふたりも興奮せざるを得ない。


「佐野~! バグ探しなんて辞めてデートしようぜ☆」

「デート? 誰と誰が?」

「ツッコミ待ちか、おめーは。女の子同士だったらデートになるんだよっ! たぶん」

「ふ、ふーん」


 口をモゴモゴ動かしニヤニヤを抑える麻希。中学1、2年生のときスクールカーストの最上位に君臨していた少女とのデート。嬉しくない男はいない……いまの麻希はアルビノの少女だが。


「よっしゃー! 遊園地行こうぜー!」

「う、うん」


 宮崎に手を引っ張られ、麻希は桜木町駅から精密に再現されたみなとみらいを歩いていく。


「やー。ここ来るの久しぶりだね~」

「そんなに外出てないの?」

「そりゃもちろん。ヒト多いところ行くと酔っちゃう☆」

「良く分かんないなぁ」

「えっ、なにが?」

「だって宮崎ってずっと一軍女子のエースだったじゃん。しかも陸上部のエースだったし、頭もめちゃ良かった。それなのになんで急に学校来なくなっちゃったの?」

「ソードフィッシュ・オンラインがうちを呼んでたからかな」

「嘘つけ」


 麻希は最前の照れ顔が嘘のように、宮崎の瞳をじっと見つめる。


「宮崎はとんでもない飽き性なんでしょ? 学校でトップ獲ったからそこへ価値を見いだせなくなった。んで、まったく違うジャンルとしてMMOを選んだ。どう? 当たってる?」

「ぐうの音も出ねえ……」

「ねえ、宮崎。私……おれは君が羨ましいよ」


 歩き出した麻希に宮崎は奇怪な気分になりながら着いていく。


「なんでもできるくせに何者にも成りたがらない。なんにもできないのになにかに成りたがる私とは対極だよね。まあ……ただの愚痴だけどさ」


 なにかを言い出そうとする宮崎。ところが、ここで麻希は“デバイス”を取り出す。


「といっても、いまある問題がいなくなってくれるわけじゃない。ここらへんはバグが多いみたいだし、ひとつずつ解析してからデートしようか」

「う、うん」


 わずか2週間のうちに追加マップ、それも横浜市全域を再現したマップを無料アップデートで配布した。元々東京を模したサーバーがあるのにも関わらず、だ。

 となれば、サーバーへかかる負荷も相当なものになる。また、バグチェックもおろそかになる。ならば、そのゲーム上あり得ない仕様を使い、『ザ・ミラクル』という姿かたちを現実世界へ引き継げる“ギア”を強制的に剥がさせれば良い。


 そして幸いなことに、こちらへはハッキングに手慣れている宮崎碧衣がいる。まだ追加されて1日と経過していない横浜マップの問題点を精査し、突破口になりそうな方法を片端から試していく、というのが麻希たちの作戦のひとつであった。


「うーん。ゲームシステムを覆せそうなバグはないみたい」

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