Ep19 少年はおしまい

 ところが。


「や、よくよく考えたらさ。仮想現実にいる間ってうちら無防備じゃね?」


 宮崎の機転が冴えた。そうだ、“ニュー・フロンティア”で遊んでいる間にリアルで拉致されました、なんてことが起きないように誰かがこちらの世界に居続けないとならない。


「あー、確かに。でも、“ニュー・フロンティア”内でのバグ探しも独りぼっちじゃキチイね」

「ならあたしが残る」


 真っ先に手を挙げたのは麻友だった。よほどVRMMOの世界が嫌らしい。

 と、なれば麻希と宮崎が向かう流れではあるが。


「麻友ちゃん、大丈夫? うちも残ろうか?」


 麻友をひとりにしておけないのも事実だった。あれだけ殴打されて未だに青あざと全身打撲が残っており、治療なんて整形外科で応急処置してもらっただけだ。

 歩くことへも苦労している友だちの妹を置いていけない、というのが宮崎の結論である。


「うーん。そうすると私……おれ? 一人称がうまく出てこない……」

「お兄ちゃん……」麻友は呆れ返るような目つきだ。

「ともすれば、もうひとり欲しくね? 佐野、誰か信頼できる友だちいないの?」

「この見た目じゃ誰もお、わ、お、私だって信じないよ。あ、私って言っちゃった」


 思わず手を抑えるアルビノの少女麻希。宮崎と麻友は悩ましそうな溜め息をつく。


「ごほん。逆に宮崎は誰かいないの?」

「なんだろう。可愛い顔するの辞めてもらって良いですか? 君はいつからうちの愛らしい妹になったのかな?」

「別に望んで……なってるねぇ。んで、友だちは?」

「いないよ。うち、連絡先に佐野と親、祖父母しか登録されてないもん☆」


 なぜそちらこそ可愛らしい笑顔を浮かべられるのか。これには麻希と麻友も怪訝そうな表情で返すほかなかった。


「ねえ、お兄ちゃん。これじゃ埒あかない。あたしの友だちいれて良い?」

「おお、麻友ちゃん頼りになるねえ~」


 ギャルっぽい宮崎に抱き寄せられ頭を撫でられる麻友。まんざらでもなさそうだが、微妙に恐れている感じもある。まだまだ心の壁を通り抜けられていないのであろう。


「あ、ありがとうございます」

「照れなくて良いよ~。やー、中学生って可愛いね~。うちなんて中学ほぼ行ってなかったからさ。下校してる子見ると胸が締め付けられるような──」

「麻友、その友だちって誰?」


 思い切り話を脱線させようとする宮崎に代わり、ある程度麻友の交友関係を知っている麻希が彼女へ話しかける。


「あたしの友だちで一番の変人」

「変人」

「そ。運動神経抜群の野球部のエース。趣味は女装。いつか性転換手術を受けて芸能人になるって豪語してる。坊主にするのが嫌だから野球部やめようか迷ってるらしい」

「あー、山本知恩やまもとちおんくんか。何度か遊び来たことあったよね」

「そーそ」


 なぜ山本をもっとも信頼できる友だちに指定したのかは謎だが、ひとまず妹のことを信じてみよう。


 と、冷静な思考に至った麻希の隣で、彼女の部屋のベッドへうつ伏せになりスマホをいじっていた宮崎は口をあんぐり開けていた。

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