Chapter2 仲間を集めて立ち向かえ

Ep18 外出自粛

 世界最大の企業、創麗そうれいグループ。世界中からありとあらゆる企業を買収し、いまや創麗という単語を聞かない日はない。


 そして、この地球上に君臨する超大企業が開拓し始めた“VRMMOゲーム”の世界。『もうひとつの現実と現実の境目をなくす』というスローガンのもと、きょうも“ニュー・フロンティア”はアップデートを続けている。


 とはいえ、オープンワールド型のクライムアクションVRMMOといえど、所詮はゲーム。生活に支障が出ない範囲で楽しむものだ。パクスコインという仮想通貨を稼げる側面はあれど、現状それの値打ちが決定されていないからには、貴重な中高生の夏休みをすべてつぎ込むほどではない。


 されども、佐野麻希や宮崎碧衣、麻希の妹佐野麻友にとって“ニュー・フロンティア”はただのゲーム以上の意味を持つ存在となってしまった。正規の方法で手にしたはずのゲーム内アイテム──現在はレア度マックス☆5“ギア”『ザ・ミラクル』の奪還を狙われ、現実・非現実問わず賞金稼ぎから逃げ惑う日々。運営いわく配布する予定はなかった、とのこと。トドメにどちらの世界でもその『ゲーム内の見た目・能力をリアルにも引き継げる』道具を外すことができない。


 すなわち、四方八方が敵だらけになったわけである。この状況を打開する方法はふたつ。あまり盤石とはいえないゲーム内のシステムを弄って『ザ・ミラクル』を外せるようにするか、運営元である創麗グループと妥協を図るか、だ。


 *


「もうあのゲームログインしたくない……」

「大丈夫、兄ちゃんも同じこと思ってる」

「だよね。まさかうちがオンゲーを嫌いになるなんて思ってもなかったよ」


 ありふれた中高生女子3人組を捕らえる、あるいは抹殺するだけで1億円。裏社会と“ニュー・フロンティア”ユーザーを中心にその情報は轟いた。いまやこの3人は外出もろくにできない。日用品や食料はすべて置き配に頼り、その荷物を回収するときすら拳銃を隠し持つ始末。ゾンビ映画の登場人物になった気分だ。


「でも、外出た気になるにはあれしかない。公開セッションじゃなきゃ他のプレイヤーが入ってくることもないし」

「そうなの? お姉ちゃん、いやお兄ちゃん」

「ゲームシステム的にはそうだけどね……、麻友ちゃん」

「なら、バグで誰かが入ってくる可能性があるんですか? 宮崎先輩」

「うん、まあそんなところ」

「不安なことばっかり言わないの! もう家の中でできることやり尽くしたんだから!! それに、あのゲームの中に入んないと突破口も見えないんだから!」


 麻希がそう締め、それでも渋々という態度でサングラスみたいな装置をみんなで装着した。

 外出自粛を強いられ、ストレスが溜まりきった佐野兄妹と彼らの家に逃げ込んできた宮崎碧衣は、半ば自暴自棄気味に“ニュー・フロンティア”へ入り込こもうとする。

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