Ep17 陰謀が現実世界へも
「ま、待て……」
そんな兄妹の背後で、致命傷は免れた男がささやく。
「オマエのギアは現実ともうひとつの現実をつなげるモンだ。それがなにを意味するか本当に分かっているのか……!?」
「……、」
「オマエはなにも知らねェ……。もうひとつの現実“ニュー・フロンティア”が狙ってる真の目的を。それを知ったとき、おめェは世界一の大企業が巻き起こす人為的な災害に巻き込まれることに──」
「陰謀論には興味ないし、もう耳障りだ」
麻希は男の身体を這っていた水を動かし、彼の口へ放り込む。男は辛うじて死なずに、しかし死ぬ直前まで追い詰められた。
「なにがどうであっても、誰かを踏みにじって良い理由にはならないんだよ」
*
宮崎がいる場所へ戻ってきた佐野麻希と麻友。もっとも、麻友は意識を落としている。そのため麻希が歩いて帰ってきた形だ。
「おっ。救出したの?」
「そりゃもちろん」
「やー、良かった~。これで佐野の両親にも顔向けできるよ」
「……。あんなのに顔向けできても仕方ない」
「え?」
「なんでもないよ。さて、ここ立ち入り禁止だしさっさと逃げよう」
「う、うん」
黙々と出口へ向かっていく麻希と宮崎。安堵感もあるし、これからへの不安もある。ただ、それを共有し合ったところでなにも変わらない。
「あ、“ニュー・フロンティア”から通知来た」
「なんの通知?」
「待って。電波が悪くて読み込みできな……は?」
宮崎碧衣はしばしその場に立ち止まり、まさしく硬直した。怪訝に思った麻希は足を止める。
「なんなのさ?」
「…………運営がうちら3人に懸賞金を懸けた。現実・仮想現実問わずに」
湿度の高い熱帯夜ということもあるが、宮崎の額には露骨なまでに汗が垂れ始めていた。
「現実・非現実問わずに? ……。それってどういうこと?」
麻希は薄々気づいていた。自分の選んだ道が後々厄介事になると。仮に“ニュー・フロンティア”での能力をリアルで使えるとして、それを検知されたらあのゲームの運営はどんな手段を取るのか。現実ではあり得ない超能力や魔術みたいな力を使えると知られたら、運営どころか警察、軍隊をも相手にする羽目になるかもしれない、と。
けれど、麻希は分からない振りをするのが精一杯だった。もしかしたら自分が考えているほど苛烈な試練を与えられたわけでないと。
「……うちら3人、☆5“ギア”『ザ・ミラクル』を適用できる3人を抹殺できたら、1億円相当のパクスコインを配布するって」
「…………だったら『ザ・ミラクル』自体返却するよ。もう面倒事はゴメンだ」
「──いや、『ザ・ミラクル』は呪いの装備みたいなものだって。一度装着したら死ぬまで有効だって、ほら」
宮崎は明らかに手と声を震わせながら、麻希へスマホの画面を見せた。
こんなふざけた展開、演じる意味もない。
それでも麻希は、強がるしかなかった。
「……大丈夫。私、いや、おれと宮崎がいて攻略できないゲームはない。賞金稼ぎからパクスコインをぶんどってやろう」
***
第一章、これにて終幕です。よろしければレビューなどお願いします。励みになりますので!!
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