Ep13 誘拐事件
『よー。☆5の“ギア”お持ちのクソ野郎! ついでに☆4もふたつか!? 現実世界の妹を殺されたくなきゃ、おれの指示に従え』
どう考えても妹の声ではなかった。麻希の表情は一気に蒼くなる。
『あー? 返事できねェのか?』
「…………。誰だ」
『はははッ!! 誰だって良いだろ! 愉快な誘拐犯とでも名乗っておこうか!? まあ良いや! 取引と行こうぜ? 100,000パクスコイン用意しろ。それと交換だ。ものの価値も分からねェガキにァもったいねェしなぁ!!』
「……。どこで受け渡すんだ?」
『おお!! 案外冷静じゃねェか! 場所は現実世界だ。住所は送ってやるよ。ああ、あと! 当然警察にチクったら妹はぶち殺す。
「待て……。麻友の声を聴かせろ──」
電話は切られてしまった。麻希は憔悴しきった表情で、不安げにこちらを見つめる宮崎へ告げる。
「……麻友が拉致された。現実世界で」
「現実で? だって家でもうひとつの現実へ入り込んでるんでしょ? と、とりあえず親御さんに相談したら?」
「…………。いや、口止め食らってる。それに下手に親へ密告したら、父も母も警察に頼るだろうさ。麻友が可愛くて仕方ないから。でも、そうしたら麻友は殺される。そんな予感がする」
麻希は力なくそうつぶやき、“ニュー・フロンティア”からログアウトしようとする。そんな友人の顔を見ていられないのか、宮崎はアルビノの少女の肩を叩く。
「うちも手伝う。だからそんな顔しないでよ……」
「……うん」
*
麻希はもうひとつの現実から帰還し、同じ部屋でプレイしていたはずの麻友がすっかりいなくなっていることを確認する。
「……。どうやって仮想現実に入り込んでるって知ったんだ?」
誘拐しようと考えたとき、一番楽なのは泥のごとく眠っている者を拉致することだ。そしてパクスコインを要求してきた。この暗号資産はあのゲームをプレイしない限り手に入れられない。
つまり、犯人は麻希と麻友が“ニュー・フロンティア”へ潜っていたことを知っていた。
「いや……そんなこと考えてる暇なんてない。今回のマイニング額が100,500パクスコイン。ギリギリ払える──」
と、ここまで思考しておいて、麻希は間抜けな声を漏らした。
「なんで犯人はおれが☆5の“ギア”を持ってることを知ってた? あっちの世界だったら結構なプレイヤーとすれ違ってるだろうけど、こっちじゃ外出はほとんどしてないし……。いや、パソコンショップへは行ったな。ということは──」
明け方の4時頃。麻希の神経は研ぎ澄まされつつあった。
「あのショップにいた誰かが黒幕ってことか……? パクスコインで決済したところを見計らい、ストーカーしてこの家を割り出し、ちょうど良いタイミングで麻友を連れ去った。それに、なんで☆4“ギア”をふたつ持ってることを知ってるんだ? ……。まさかッ!!」
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