Ep10 貴方は薄汚いブタ野郎を爆破した

 人間の目では麻希の居場所を知ることはできない。なにせ、こちらはスナイパー用のスコープまで使っても相手を目視できなかったのだから。


 しかし、それでも攻撃は止まない。何度も何度も銃弾みたいなものが飛んでくる。命中率こそあまり高くないが、されどじわじわ食らっている。このままでは『ヘルス』が尽きてキル判定になってしまう。なにか手を打たなければならない。


「どうやってエイムを合わせてる? ……。“ギア”以外ないな。アイテムじゃ、こんな大規模攻撃できないし」


 どんな“ギア”なのか分からないものの、ひとまず麻希はジェットパックみたいなものを操縦して飛び回る弾らしきものから逃げ回る。ただ、逃げているだけでは勝ち目もない。


「最悪だな……ッ!!」


 まず地上に戻らないと反撃もできない。そして敵は最初の一撃を除いてエイムが定まっていない。ならば、最前の応用を行うだけだ。


「でも、推測くらいはできるぞ。たぶんエイムアシストみたいなものがかかってる。だったらデコイに任せようか……ッ!!」


 白い髪に白い肌、赤い目をした、しかし人形のごとくなにも喋らない“デコイ”を5体展開する。それらは『正気度』を失いやすくなる“ギア”でなく、使い切りでローリスク・ローリターンのアイテムだ。


「こんなところで秘密兵器使っても意味ないもんね」


 白い弾丸が“デコイ”たちに吸われていく。その間に麻希は地上へ降りることに成功した。


 必殺になる“ギア”は温存しておく。1秒の間違いが一生の後悔につながる戦場で、麻希のゲーマーとしての素質は覚醒しつつあった。


 それでは、索敵の時間だ。といっても、最前いたビルの屋上から降りているとも思えない。高台が有利なのはこういったゲームならば当然だからだ。


 そして、麻希は“デバイス”を取り出して自身の視点を切り替えた。敵を探しやすいように、現実世界でもう飽き飽きしていた一人称視点から、前々より気になっていた3人称視点へ切り替えたのだ。


(すげっ! 配信してるみたい!)


 声を出したら自身の位置が割れそうなので、感嘆は心の中だけで留めておく。


(これだったら一方的に死角へ入れる。入り込めればこっちのモンだ)


 敵性がいたであろうビルの死角に入り込み、SDカードくらいの大きさの“ギア”を“デバイス”に差し込む。

 レア度は☆4。きのう宮崎碧衣とこなしたミッションの特別イベントで強奪した代物だ。


「──うぐッ!!」


 が、レア度の高さは負荷の強さにも直結する。三人称視点に切り替えた麻希だが、すでに画角の7割くらいが赤いノイズにまみれていた。吐き気と頭痛も起きて、高熱にうなされるかのように息切れを起こす。


 されど、意識はまだ残っている。ここで一撃を叩き込めるだけの体力はある。


「はあ、はあ……。一発で決めよう。でなければ、おれの負けだ。12時間と宮崎からもらったものが全部台無しになる。さて……」


 小声でそうつぶやき、麻希はそれこそスーパーカーのごとく加速した。時速200キロを超える、恐ろしい速度で麻希は地面を蹴り上げる。東京の普遍的なビルを昇り切った麻希は、驚愕に染まる敵に向けて叫ぶ。聖歌隊のコーラスのごとく美しい声で、アルビノの少女は叫んだのだ。



「──てめェッ!!?」

「このゲームは奪うか奪われるかだ!! だからオマエから全部奪ってやる!! 奪われないために!!!」


 男アバターの敵性へ、麻希はロケット・ランチャーの砲弾を放った。コンクリートがえぐれて鉄骨があらわになり、同時にキルログが流れる。


『貴方は薄汚いブタ野郎を爆殺した』

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