Ep8 レッツ・ロックン・ロール・ドライブ!!

 全体力を使い果たして泥のように眠れていた小学生の頃を思い出す。麻希や麻友はまだ子どもの部類かもしれないが、どこか理性が働くようになってしまったのだろう。

 ただ、これからログインする“ニュー・フロンティア”は理性や道徳からもっとも程遠い場所だ。力の限り暴れまくっても咎められることもない。


「うわっ!! 東京じゃん!!」


 “ニュー・フロンティア”へ同時に入ったふたりは、渋谷のハチ公前広場らしき場所にリスポーンした。NPCがなにかに追われるかのごとくすれ違う中、アルビノ美少女の麻希は麻友の手を引っ張って、自慢げに道路へ停まっている赤いスーパーカーを見せつけた。


「どう? お、私の愛車!」

「すっげえリアル! つか、ここ本当に仮想現実なの? まだテレポートで東京へ飛ばされました、のほうが納得できるんだけど」

「ふふふ……ならクライムアクション要素を見せてあげよう」


 麻希は“デバイス”を立ち上げ、画面内の武器スロットから軽機関銃を選択する。即座に白い髪の少女がライトマシンガンを担ぐという奇怪な光景が広がった。


「え? このゲームってヒト殺すヤツ?」

「殺すミッションなら腐るほどあるよ」

「うわ~……。男子ってそういうの好きだよね」

「不満?」

「いや、どうせだったら最後まで付き合う。お兄ちゃんに買ってもらったゲームだしね」


 というわけで、やることを決めなければならない。

 拡張世界へ入る前に宮崎碧衣には連絡済み。彼女はこれから仮眠を取るらしく、だいたい2時間後にゲーム内のスマートフォンで呼び出してくれ、とのことであった。


 そして血で血を洗う抗争は好みでなさそうな麻友のため、麻希はオープンワールドゲームならではの楽しみ方を提案した。


「ドライブしようよ」

「お兄ちゃん16歳でしょ。免許なんて持ってないくせに」

「ドライブゲームで極めたから大丈夫。それに、運転ステータスも結構あげたし」

「……。まあ、心底不安だけどスーパーカー乗ってみたいかな」


 そんな会話とともに、麻希は運転席へ座りシートベルトを巻く。あわせて麻友が隣へ座り同じ動作をした。


「行くぜー!! レッツ・ロックン・ロール・ドライブ!!」


 楽しそうな兄、基姉? に呆れた目つきを向ける麻友。まあゲームだから事故で死んでもリスポーンできるだろうが、それでも生死を懸けたドライブは怖いに決まっている。


 と、思っていた頃には、麻友の意識は吹き飛んでいた。唾液を垂らしながら、顔色を蒼くし、白目を剥く。あまりの速度に意識不明になってしまったのだった。


「信号無視上等!! うひゃぁ!!」


 アホな声をあげ、時速160キロメートルで飛ばしまくる麻希。モブの乗った車は慌てて暴走スーパーカーを回避していく。この俗世の悩みをすべて忘れられるような、そういう瞬間である。


 が、そんな甘美な時間も終わりがやってくる。


 ピピピ……という警報音。

 刹那、ロケット・ランチャーの弾丸が飛んできた。

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