Ep7 ヤキモチ焼きの妹

 この姿で“おれ”はすこし変だ。オタク女子みたいで。誰かが聞けば共感性羞恥心を覚えること間違いなしである。だいたい日本語は一人称が多すぎる。他国の言語を見習ってほしい……。


「なんでフリーズしてるの?」

「あ。いや、この姿で“おれ”って一人称使えないなぁと思って」

「あたしのクラスの3軍女子みたいだもんね」

「そうやって序列付けするのは良くないぞ? おれ、ああ、私だって2軍男子だった……ああ、もう。頭ン中が混乱するぅ」

「なんかゴメン……」


 妹に気遣われ、なんとも恥ずかしい気分になる。小学生のとき喧嘩し劣勢になったとき、女子から慰められると思わず泣き崩れてしまう感覚だ。しかし麻希もいまや高校生。多少感情が混乱しても泣きはしない。


「…………。うん」


 まあ、だいぶへこむことには変わりないが。


 *


 よくよく考えてみたら、麻希の家にはモニターが2枚しかない。それらはデュアルモニターとして麻希が運用しており、デスクトップPCを動かすにはモニターが必至。となれば、サブのディスプレイを麻友に貸さなければならない。


 そう思い、ミニタワーPCを玄関においた麻希は腕がヒリヒリする中、2階の自分の部屋へと向かおうとした。


 が、先ほどの繰り返しのごとく、佐野麻友は駄々をこね始める。


「同じ部屋でやろうよ」

「おれ……いや、家の中だったらおれで良いか。あ、や。ともかく、同じ部屋でプレイしても意味ないぞ? どうせ仮想現実に入り込むだけなんだから」

「だって“チック・リール”で見た感じ、拡張世界に入ったらこっちでの意識失うんでしょ? シンプル怖いんだけど」

「寝てるときだって意識はないじゃん? それと変わんないよ」

「良いからお兄ちゃんの部屋入れて」


 勝手にヒトの部屋へ入り込み、早速ベッドの下をチェックした麻友は、溜め息をついた。


「エロ本とか持ってないの?」

「全部電子購入してるもん」

「それを妹に言っちゃ駄目でしょ。まあ、あたしは寛大だから許すけど」

「彼女目線かよ……」苦笑いを浮かべる。

「か、か、彼女っ!? お兄ちゃんあたしがヤキモチ焼いてると思ってるでしょっ!? そんなんじゃないし! ただ久々にいっしょにゲームしたいだけだし!」

「なんでそんな取り乱すんだよ。きょうちょっと変だぞ? 麻友」


 普段は業務連絡くらいしかしない妹が、なぜか積極的だ。美少女の皮はどんな問題にも効くようだと錯覚してしまう。

 でもまあ、良いことじゃないか。可愛い妹が同じゲームをやりたいと駄々こねてくる姿は、なんだか子どもの頃を(いまも未成年だが)彷彿とさせて懐かしい。


「まあ良いや。ログインしようか」


 BTOパソコンの利点は、購入してケーブルを繋げば速攻でゲーム世界に入れることだ。サングラスみたいな物体をかけ、すでにインストールしてあった“ニュー・フロンティア”を同時に起動した。


「うわ、睡眠薬飲むとこんな感じなのかな」

「さあ。ただすげえ眠くなるのは分かる。ま、それでも意識を電脳世界へ持ってくのは気持ち良いじゃん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る