Ep6 パソコンショップにて

 でも、麻友が喜んでいる姿を見れば、そんな些細な不安なんて吹き飛ぶ。

 麻希と麻友はPCショップへ向かうのだった。


 *


「結局、パクスコインってなんなの?」

「調べた限り、世界一の大企業が発行してるらしい」

創麗そうれいグループ?」

「そー。“ニュー・フロンティア”もいまから向かうパソコン屋も、全部創麗の傘下企業が作ったんだってさ」


 時価総額1,000兆円の“超大企業”にして世界最大の会社『創麗グループ』。デジタルから軍需産業、宇宙開発に広告掲載、検索エンジン、その他諸々……。

 そんなファンタジーみたいなグループが仮想通貨産業に加われば、暗号資産界隈も色々苦労していることだろう。


 とはいえ、麻希と麻友には(すくなくともいまは)関係のない話だ。ただ麻希が12,000パクスコイン──日本円換算で120,000円程度のカネを持っているだけだから。パクスコインの価値が上昇すれば厄介事に巻き込まれそうな気がしないでもないが、さほど値打ちのない現状ならば大丈夫だろう。


「換金しなくて良いみたいだし、ちゃっちゃとガジェット揃えようか」

「うん。それにしてもこの店変な匂いするね。お客さんも店員さんもお風呂入ってないんじゃないの?」

「そういうのは店の外へ出てから言うべきだぞ……」


 そこまで広くない店内にて、アルビノ美少女とツートンヘアカラーの中学生女子は、早速好奇の目にさらされていた。チラチラ、とこちらを何度も見られる感覚は愉快だし不愉快でもある。


「そんなにアルビノが珍しいか?」

「珍しいでしょ」正論をかまされた。

「それもそうか」


 一番安いパソコンと仮想現実装置を購入して出ていくだけだ。それでも、回りの客がこちらを見てヒソヒソ話してくるのは良い気分ではない。


「あのアルビノの子可愛いな」

「隣にいるのは何者だろ? 妹? まあ、アルビノって突然変異らしいしな~」

「でも歩き方が女子っぽくないよな。服装なんてもろ男子じゃん」

「多様化の時代だし、歩き方や服装なんて自由だろ」

「いや……もしかしてあの白い髪の子、TS化してるんじゃねーの?」

「バカバカしいこと言うなよ。TSFなんて空想の世界にしか存在しないだろ」


 そんな内緒話を麻希は聞き取っていた。


(……。案外悟られるものなのかもね)


 知らぬ顔で店員へパソコンとゴーグルを購入すると告げ、そそくさと逃げるように店内から出ていった。


「残り150パクスコイン、かぁ」

「というかさぁ、どうやって仮想通貨なんて手に入れたの? お兄ちゃん……お姉ちゃん、投資とか一切しないでしょ」

「ゲームやってたらもらえた」

「は?」

「良く分かんないけど、12時間くらいやった“ニュー・フロンティア”シャットダウンしようとしたらマイニング総額みたいなのが出てきてさ。やー、まさか本当に決済できるとは思ってなかった」

「いや、ゲームしてるだけでおカネ稼ぎできるとか夢いっぱいじゃん!? あたしそんなゲームやったことないけどさ、そんなうまい話があるんだ」

「おれ……あー、私? も不思議に思ってるよ。どんな理由でバラマキしてるのかさっぱり分かんないし」

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