Ep4 アルビノ美少女のお兄ちゃんといっしょにっ!!

 白い肌、白い髪の毛、赤い目、細身な身体つき。鏡の前で思わずニヤけてしまう。


「そうかそうか。仮想現実がようやくおれに追いついたか」


 30分くらい鏡の前でうっとりしていた麻希は、夏休み初日から昼夜逆転生活を過ごしていく。


 *


 佐野麻希の行動範囲は狭い。範囲は地元か自宅か、だ。

 その基礎原理に従い、夕方5時に目を覚ました麻希は誰からも遊びの連絡が来ていないことを確認し、大あくびする。


「美少女でも寝起きの口ン中はネチャネチャするんだ。そりゃそうか」


 不愉快な感覚を取り除くため、麻希はさっさと洗面所まで向かい歯磨きし始める。


「あれ? お兄ちゃんの彼女さん?」


 シャコシャコ歯を磨いていた麻希は、背後に妹の佐野麻友さのまゆがいることに気がつく。黒髪の先端だけをピンクに染めた、いわゆるツートンカラーのショートヘア。髪質はサラサラしていて、触り心地が良かったのを覚えている。矯正を泣きながら拒否した八重歯は、いまとなれば彼女のチャームポイントだ。


「でもお兄ちゃんの歯ブラシ使ってる。ばっちいなぁ」

「いや、こんな成りだけどおれがオマエのお兄ちゃんの佐野麻希だよ」


 水を吐き出し、サラッと宣告した事実に麻友が呆然とした表情になる中、麻希は洗顔剤で顔を洗ってそのまま2階の自分の部屋へと戻ろうとした。

 が、当然麻友が納得してくれるわけもない。妹は兄だった少女の袖を掴んだ。


「……。お兄ちゃんだったらあたしの好きなアイドル7人、全員言えるよね?」

「言えないな。元々興味なかったし」


 怪訝そうな顔だった麻友は表情をパッと明るくした。


「だよね~! ちゃんと答えようとしたら通報するところだった!」

「引っ掛け問題かよ……。まあ良いや。兄ちゃんはVRMMOに忙しいのでおいとまさせてもらうぞ」

「VRMMO? なにそれ? おいしい──」

「美味しくないし、日本だか韓国だかも分からないアイドルは誰もやってないと思うよ」

「…………。いま思い出した」

「なにをさ」

「宮崎碧衣、だっけ? いつだかうちに来た子。お母さんから訊いたけど、良く分かんないゲームの話で盛り上がってたって。それの名前は確か、なんだっけ?」

「ソードフィッシュ・オンラインだろ? まあ説明しても分かんないだろうから、あとは勝手にググって」

「ねえ! そんなにあたしと喋りたくない?」


 突如、麻友は不安げな表情を浮かべる。麻希は頭をひねり、いままでの会話でどんな失言をしたのか本気で考え込んだ。

 しかし、なにも思いつかない。正直になんで怒っているのか訊いても火に油を注ぐだけだと感じた麻希。そのため、麻友の性格上最適だと思われる返答をした。


「喋りたくないわけじゃないさ。ただ、ちょっとゲームがやりたすぎるだけなんだ。分かるだろ? 麻友だっておれが見てた番組勝手に変えるしさ」

「う……。確かに」

「納得した?」

「いや、してない」

「じゃあどうしろと?」両手を上げた。

「あたしもそのゲームやりたい。余ってるゲーム機貸して」

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