Ep3 現実に持ち帰れるアルビノ美少女スキン

「むしろバッカ良くね? そのギア」

「うち、この世界からログアウトするつもりないもん。それにこの世界の姿とリアルの姿そんなに変わんないし」


 最前の通り、宮崎は美人だ。焦げた茶髪にくりくりした目つき、顔は小さく脚も長くまさしくスタイル抜群。ニートなんてやらずにモデルにでもなれば良いのに、と思ってしまうくらいには。

 そんな一歩違えばここへはいなかったであろう美少女からのプレゼント。受け取らないのはダサい。


「分かったよ。宮崎の代わりにリアル充実させるさ」

「ちゃんと大事にしてよ? レア度☆5だからね?」

「そのうち☆6とか☆10とか追加されるよ。でもまあ、ありがとう。嬉しいよ」


 満面の笑みで返した。宮崎はそそくさと麻希に近寄り、胸を当てて自撮りする。


「あっ、でも仮想世界だからリアルのSNS使えないんだった……」

「まさかアップロードするつもりだったの?」


 困惑した表情を浮かべる。そしてまた宮崎は胸を押し当ててきて“デバイス”でセルフィーした。


「さっきからなにしたいのさ?」

「あ、いや……。やっぱり現実に戻ろうかなって。アルビノ少女が隣にいれば、もうすこし頑張れそうな気がするし」

「まあ……」


 麻希は一旦言葉を区切り、取り乱している宮崎を落ち着かせるように告げる。


「社会復帰したいのならいつでも呼んでよ。腐れ縁ってそういうものでしょ?」


 深夜をすべて使い果たし、ひたすらゲームのレベル上げに励んでいた中学時代。その隣にはいつも宮崎がいた。彼女は疲れ知らずで、土日になるとMMOに20時間くらい突っ込んだ。ゲームの世界ではとても頼りになる少女である。


 ただ、長きに渡る不登校・ニート状況から抜け出したいのであれば、あんなに強かった宮崎も誰かに頼らざるを得ない。そのときが訪れたら、佐野麻希はきっと宮崎に手を差し伸べる。それが腐れ縁だからである。


「……うん」

(スキンだと分かってても可愛いなぁ)


 まあ、よこしまな感情がないといえば嘘になるが。


「さて、と。きょう何時間やる?」

「……。佐野、うちらに限界はないぜ? ふたりだったらどこまででも行ける」

「そうかもね」

「冷めた口調だな! うちなんてちょっと涙目になってたんだぞ?」

「あ、ゴメン」

「良いよ! 次のジョブ行こうぜ!!」


 *


 “ニュー・フロンティア”総プレイ時間12時間34分。


『ゲームをシャットダウンしますか?』

「はい、と」

『ギアを適用しますか?』

「ギア? ああ、宮崎がくれたヤツか。眉唾だけど……適用します、と」

『ゲームを終了しています……本日のマイニング額──12,000パクスコイン』

「パクスコインってなんだよ……。あれだけ調べたのに知らないことだらけだ」


 と、ロード画面に向かって愚痴を吐いた。やがて意識が現実に戻ってくる。

 ゲーム内の時間とリアルは連動している。辞めたときの時刻が深夜3時だったが、ほとんど誤差なく現実へ戻ってこられた。


「……へへっ」


 麻希は姿見に映るアルビノ美少女を見て、あのゲームは当分やめられないと感じるのだった。


***

この話から1話1,200字程度になります。ご了承ください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る