Ep2 バッチバチのドンパチ
「なあ、宮崎」
「なに? …………なんでその名前を」
「ちょいちょいMMOやってたじゃん。佐野麻希だよ」
「……。中1と2年生のとき同じクラスだったよね。何組か覚えてる?」
「3組と4組だったはず」
「いっしょに遊んだゲームの名前は?」
「ソードフィッシュ・オンライン。やー、無課金で廃装備整えてたもんね。あのアカウントって50万円くらいで売れそうじゃん?」
「…………。佐野はいまなにしてるの?」
どうやら麻希本人だと分かったらしい。アルビノの美少女は答えた。
「適当に高校生やってる。つまんねーと思ってるけど、まあ高校くらいは出ておきたいしさ」
「……良いよね。高校生って」
「通信制だって立派な高校だろ」
「あそこもう辞めちゃったよ。うちの目指してた高校じゃないもん」
「じゃあ、いまはなにしてるの?」
「ニート」
「身も蓋もないなぁ……」
「でも、このゲームをやれば仮想通貨をマイニングできる。億万長者が仕事してなくたって誰も文句言わないでしょ?」
(話が飛躍してるなぁ。稼げるデジタル通貨だかなんだかって言っても所詮はゲーム販促用。知れてるだろ)
夢を描いているように見える宮崎とは対照的に、麻希は至って冷静だった。プロゲーマーやストリーマーがゲームすることを仕事にするのは分かる。彼らの配信や動画が見たいヒトがたくさんいて、それだけの魅力を持つ人材が稼げるのは当然だと。
しかし、麻希や宮崎は一般人だ。SNSのフォロワー数も1,000人には遠く及ばない、誰とでも代替可能な人材。そんな16歳たちがゲームしているだけで億万長者になれたら、ハイパー・インフレの再来である。
「このゲームにはうちらの未来がすべてかかってる。手始めにミッションこなしていこっか」
「ああ、うん」
愛想のない返事すら気にせず、宮崎はスマートフォンみたいな装置をスワイプした。
*
『バッチバチのドンパチ』
東京のありふれた裏路地らしき場所。
スマホ、基、“デバイス”にはマップと赤点が十数個。こちらが所持している武器は残弾40発のハンドガン。日本生まれ日本育ちの麻希は銃など撃ったことがない。
途端に緊張してきた麻希は、敵性を一瞥する。東京を舞台にしているだけあってか、NPCも日本人っぽく作られている。そして全員の手元にはアサルトライフル。もう帰って良いですか?
「さてと、皆殺しにしちゃうぞ☆」
一方、宮崎はレベル上げしたあとにミッションを受けたのか、銃火器もそれなりに持っているようだ。彼女の“デバイス”からは次々武器が出てくる。サブマシンガン、軽機関銃、自動小銃……ロケット・ランチャー。
「やっぱロケランで爆破させるのが一番はかどるんだよね~」
どこからか湧いてきたロケット弾を、宮崎はなんの遠慮もなく敵に向かって撃った。ブオン、という風切り音とともに、彼女はハッピートリガーと化すのだった。
車が吹き飛び、ヒトもポップコーンみたいに跳ねる。ついでに爆散して粉々になるものだから、余計にあのスナック菓子を彷彿とさせてくる。もっとも、グロくて直視もできないが。
「ほら! 突っ立ってないで手伝ってよ! 報酬折半にしたんだから!!」
当然のようにこの世界に適応できる宮崎が、なぜ不登校になった挙げ句高校中退したのかは謎だ。続々とロケット・ランチャーを撃っては投げ捨て、撃っては投げ捨て……紛争地帯でも余裕で生き残れそうな気がする。
とはいえ働かないといけない(これはゲームだが)ので、麻希は落ちていたアサルトライフルの照準を爆発のショックで目と耳が聴こえていなさそうな敵に向けて定めた。
(えーと……南無三!!)
所詮プログラミングでいくらでも生成できるNPCだが、グラフィックが良すぎるが故に本当にヒトを殺してしまったような感覚につままれる。
が、休んでいる暇もない。宮崎の大活躍で敵性は残り8人まで減っていたが、それでもこちらの4倍いる。油断はできない。
「チクショウッ!! なんなんだよ、あのガキどもはァ!!」
「クソ、クソッ……!! このままだとマジで全員死ぬぞ!?」
「だったら奥の手使うしかないだろ!! 売れば10億円は手堅い“ギア”だけど、背に腹は代えられねェ!!」
不良風な喋り方で、敵性モブキャラクターは場面を盛り上げるかのようにそれらしいセリフを吐いていく。
それと同時に“デバイス”に載っていた指令が変わった。『特別イベント! レア度☆5の“ギア”を奪うチャンス!!』という通知である。
「ギアってなに?」
宮崎は取り付く島もなく、サブマシンガンを担いで突撃していった。
「“ニュー・フロンティア”に7つしか排出されないっていうレア度☆5……。こんなカスみたいなジョブでこんな幸運が起きるなんてね!!」
振り返ってみれば、宮崎はありとあらゆるゲームが得意だった。その腕前はVRのMMOになっても変わらない。
「うおッ!! いきなり突っ込んできたぞォ!! ぐぉ!!」
「うあッ!?」
「ぎゃあ!!」
あっという間に敵性を殲滅した宮崎は、返り血で染まった白いスーツ・ジャケットを投げ捨てる。
「グロいなぁ」
死体だらけになった裏路地を直視できぬまま、離れたところで麻希は宮崎が戻ってくるのを待つ。そろそろゲームクリアになって報酬がもらえるはずだが、突如発生したイベントの所為で長引いているのだろう。
「あった! レア度マックスのギア!」
宮崎はSDカードくらいのなにかを見せつけてくる。心の底から嬉しそうな表情である。まあ確かに最高レアの道具が手に入ればこれくらいはしゃぎたくなるか、と麻希も納得せざるを得ない。
が、宮崎は“デバイス”でそれをかざした瞬間、しょんぼりした表情と態度になった。彼女は佐野に近づき、数ミリのカードを渡してくる。
「あげる」
「なんで? 要らないの?」
「だってこれ、“このゲームで作ったキャラデザを引き継げる”ギアだもん。そんなの要らないもん」
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