New Frontier Stories-クライムアクションVRMMOで【虚空夜叉】と【仮想通貨】を手にしたアルビノ美少女(中身オタク男子)が現実世界でも無双するだけ-

東山統星

Chapter1 いざ”ニュー・フロンティア”へ

Ep1 VRMMO”ニュー・フロンティア”

 20××年8月1日。佐野麻希さのまきは夏休み初日ということもあり、早速気になっていたPCゲームを始めた。


「さぁーて、きょうはいくらでもゲームできるぞ。パソコンが裸足で逃げ出すくらい遊び尽くしてやろう」


 基本無料、レーティングはR15、ジャンルはオープンワールド型クライムアクションVRMMO。つい数年ほど前だったらこのゲームをプレイするのに最低70万円は必要だった。おまけに日本住宅にはおけないくらいロボットみたいに巨大な媒体の中へ入らないとプレイできない有様だった。


 しかしここ1~2 年の技術発展は凄まじく、いまやサングラスほどまで小型化された装置の値札は脅威の10万円切り。高校生の麻希のバイト代のみで購入できてしまうお手頃価格である。


「仮想世界に入り込む感覚には未だに慣れないけどな……」


 とはいえ、VRMMOは拡張された現実のような場所。サングラスみたいなものをかけてから、目をつむり呼吸を整えて(別にこれらの動作は必要ない)、目の前へ広がる世界のみに集中力を向ける。


 *


「おお……。これが“ニュー・フロンティア”か」


 事前情報は嫌というほど読み込んだ。あとは実践していくだけだ。

 まず、麻希は仮想現実に入り込んだことを確認するために、自身の両腕を見る。ややノイズがかかっており、それでも輪郭ははっきり見えるため、“もうひとつの世界”に入れたのはほぼ確定だろう。


 続いてスマートフォンみたいな物体を取り出す。これはポーズ画面や武器選択、ファストトラベル、マップなどを表記してくれる。この世界限定での通話やインターネットもできるのでスマホの上位互換みたいなものだ。


 武器スロットには登録特典の特別仕様ハンドガンが入っていた。麻希はそれをクリックし、音もなく拳銃を握る。金のライオンが描かれている、しかし性能は通常のピストルと変わらない──初期武器といったところか。


「オープンワールドゲームあるあるだけど、最初なにしたら良いのか分かんないんだよね~」


 だいたい確認し終わった麻希は、とりあえず若干ノイズで覆われている昼の街を歩く。街並みのモデルは東京だという。後々追加マップが来ることも運営がアナウンスしているので、ハマれば長く楽しめるゲームになりそうだ。


「お。なにやらメッセージが」


『ミッションをクリアして仮想通貨を手にしよう!! 手にした暗号資産は現金といつでも引き換えられるぞ!』


「つまり、ってことか? 前情報にそんなうまい話なかったけど」


 仮想通貨。高校1年生の麻希でもその価値と怪しさは充分心得ている。具体的な稼ぎ方は分からないし、どんな理由で法定通貨と交換できるのかなんて見当もつかない。


 ただ、ここは所詮仮想現実。何度死のうが復活できるし、そもそもデジタル通貨を持っていない麻希は損しようがない。それに、目先のカネに釣られてしまうのは貧民ならば当然の摂理だ。


『バッチバチのドンパチ、を請け負いました』


 次の瞬間、砂嵐みたいなノイズとともに麻希の視点は入れ替わっていた。


「ミッション待機場面じゃないみたいだな」


 たどり着いた場所は刑務所の中だった。というのも、いかにも囚人がボートを持って写真撮りますよと言わんばかりの設備だからだ。


「キャラ・メイクの時間? ついでにステータスもいじれるっぽい」


 なお、このゲームは1人称と3人称を任意で切り替えられる。3人称に切り替えたとき優位な場面もあるのだろう。そうなれば、キャラ・メイクにも気合いが入る。


「うーん。アルビノ美少女で行こうっ!」


 大して悩んでいないだろ、とツッコまれそうだが、実際悩んでいる時間のほうが無駄だ。だから麻希はさっさとキャラクター・スキンを組み上げていくのだった。


 *


「なりたい自分に絡まる電柱~♫」


 鼻歌まじりに麻希は自身のスキンを決定した。

 白い髪、ショートヘア、妖精のような佇まいの顔立ち、160センチくらいの身長は最小ヒットボックスになるよう調整してある。身体つきは良く言えばスレンダー。悪く言えば貧相。これも攻撃を食らいにくくなるように数値をかなりいじってある。


「さあさあ、流れるように進んでいきましょう。やー、初期ステ弱いなぁ」


 残されたバラメーター通りに極振りしたところで雀の涙だ。だったら適当に分けておこう。

『射撃』『ヘルス』『運転』『防御力』『正気度』……ここらへんは前評判どおりだ。ヘルスと防御が被っている気がしないでもないが、とりあえず均等に振ってみた。


「全部5段階中1か2……。不登校児の内申じゃないんだからさぁ」


 仮想現実での自分を組み上げ、麻希はミッションへと戻っていく。


 不登校児、で思い出したことがある。中学のときいきなり学校へ来なくなった女子がいた。それなりに会話する仲だったので心配になって連絡したら、彼女はどうもMMOゲームにドハマリしたらしく、時々いっしょにプレイした。高校に入学して以来疎遠になってしまったが、この“ニュー・フロンティア”という“VR”MMOの世界でまた会えるかもしれない。


 そんなちょっぴり切ない過去を思い出した麻希は、ワンボックスカーで女アバターの誰かと待ち合わせていた。これが待機画面というヤツだろう。


「ねえ、君ネカマ?」

「は?」


 突然話しかけられ、麻希はややセンチメンタルになっていたメンタルを仮想の現実へ戻す。


「だってアルビノ美少女なんてネカマくらいしか使わないでしょ。まあ、キャラ・メイクは相当頑張ってるみたいだけど、それくらいで本物の女を欺けると思うなよ~」

「いや、別に詐欺してるわけじゃないだろ。野郎のケツと美人のケツ、どっちを追いかけたいかって話だよ」

「でもそのスキンで恩恵得られそうじゃん? 私なんて極力自分に寄せたアバターにしてるのに」

「はあ? こんな美人がネトゲなんてやらないだろ。こういうゲームやってる連中はデブとハゲと体臭を併発してなきゃいけないんだよ」

「とんでもない偏見……」


 目をそらす。一見すると会話なんてしていられないという意思表明にも捉えられる。

 が、佐野麻希は“美人”と形容した彼女の正体を知ってしまう。そういえば、どんなゲームでも同じIDと似たようなスキンを使っていたな、と。


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