第三部 闇と夜の番人

「なあ、シマ。あの子はやっぱり、あのヤミなのだろうか」


 スヤスヤと眠る我が子に視線を送りながらルイが言った。


 私は小さな洗濯物をたたんでいた手を止めてルイの方を見た。

 ルイは子が眠ったつかの間の休息に体を横たえているのだった。


 この質問は定期的にルイが口にするものだった。

 ルイはこの子がヤミであることは既に受け入れているのだが、あのヤミと同一なのか、なぜ我々の元に生まれてきたのか…そんな答えの知れない疑問に思考を支配されてしまうことが時々あった。


 何かの発作みたいだな…と私は思っていた。


「ルイは、この子があのヤミじゃない方がいいって思うの?」


 我ながら意地悪な返答だなと思いつつも、私もいい加減うんざりしていた。

 考えても仕方がないことで頭を悩ますのはストレス以外の何物でもない。

 ルイにはもう考えるのをやめてほしいと思っていた。


 ルイは黙って寝返りをすると背中を向けてしまった。


 私は自分の酷い言い方を反省した。


 ルイが葛藤しているのはわかっていた。

 前世の子供時代にルイがヤミを毛嫌いしていたのを私は知っている。


 でもそれは私を取られると思っていたからではなかったか?


 今の状況はむしろ、ヤミにルイを取られているのは私ではないか。


 ヤミが目を覚まして泣き出した。

 私が立ち上がって彼を抱き上げると、ルイが寄って来てヤミを受け取った。


 それからルイはヤミのお腹に顔をこすりつけて赤子の匂いを吸い込んだ。


「うんち、出たんだね」


 ルイはそう言うとヤミのおしめを換えるために彼を布団の上に置いた。


「紙おむつ、開発したら俺また神扱いされるかな…」


 慣れた手つきでヤミのうんちを処理しながらルイが言った。


「ポリマーみたいなのがないと無理だろう」


「だよな」


 私はルイが何を考えているのかよくわからなくなり、その表情を観察した。

 おしめの交換をしているルイの表情は優しく、まさしく母の表情だった。


「俺さ、前世では子供がいなかったんだ…てか、結婚もしてなくてさ。子供は好きだったけどね。自分が母親になるなんてさ。驚いてるんだ。動揺してるよ。他の誰でもない、シマと俺の子だよ。それが、ヤミっていうのはさ、いったいどういう意味なのかな」


 清潔にしてもらったヤミはご機嫌になり、手足をバタバタと動かしていた。

 ルイはヤミを抱き上げると、さも大事そうにあやし始めた。


 私は無言で彼らに近寄ると、ヤミとルイをこの腕の中に抱いた。


「大丈夫。二人とも愛しているよ」


 私は二人だけに聞こえる声で囁いた。


 ルイは小さく「うん」と言った。


 ルイがこんな様子で少し心配であったが、出産直後に比べたらこれでもだいぶマシになったのだ。


 ルイが産気づいたのは激しい嵐の日だった。

 この世界では、出産の際にまじないやらお祈りやら、余計な儀式が多いのだが、私はそれらを全てキャンセルした。


 とにかく嵐がすごかったし、ルイのお産が早そうな雰囲気だったので、流暢に儀式などやっている場合ではないと判断したのだった。


 だがそのせいで誰も出産を手伝ってくれなくなってしまった。

 儀式を行わない出産は不吉とされていたのだ。


「いや、でも儀式してる間に生まれちゃうだろ、これ…」


 ルイも陣痛に苦しみながら私の判断に同意してくれた。


 こうなったら我が子は自分で取り上げようと準備をしていたところ、望月が私の祖母を連れてやって来た。


 私の変人っぷりのせいで絶縁状態になっていた祖母である。

 その祖母が、我々の出産に唯一手を貸してくれたのだ。


 いや、望月が彼女を説得して連れて来てくれたのだ。


 自分の母ではなく祖母が来てくれた事実は私の心に深く刻み込まれた。


 祖母のおかげで、ルイは無事出産することができた。


 しかし、生まれてきた子の顔を見ると、祖母は腰を抜かして逃げて行ってしまった。

 顔にアザがあるなどは、この世界では “呪い” と解釈されるのだ。


 私はこの世界のこういうところが大嫌いだった。

 なにもかもが非科学的で、差別的だ。


 ルイはルイで産んだばかりの赤子の顔を見ると、ひきつった声をあげ失神してしまった。


 こちらはまた別の呪いだ…。こっちの方が根深いかもしれない。


 誰の助けも無くなってしまった私と望月は、二人でどうにかへその緒を切り、後産の処理もした。


 ここで噂を聞きつけた近所のおばさんが手伝いに来てくれた。

 日頃からルイが親切にしていた病気がちのおばさんだった。


 赤子の様子を何となく聞いてはいたが、いてもたってもいられなくて来てくれたとのことだった。


 私にはこのおばさんが神に見えた。

 神とはこういう人のことを言うべきである。


 おばさんはてきぱきと新生児の処理をしてくれた。


 生まれた瞬間は泣いていた赤子は今は眠っていた。


 とても小さかった。


 赤子に何か飲ませなければならなかった。

 この世界には粉ミルクはないので、代わりに乳母が存在するわけだが、望月が走り回って探しても助けてくれる乳母はいなかった。


 呪われた赤子に乳を吸われると自分も呪われると信じてる者たちばかりだったのだ。


 そこで、おばさんが、民間で行われている方法を教えてくれた。


「もらい乳ができないときはね、粥の上澄みや大根の煮汁を飲ませるんだよ」


 こうして何とか生まれて来た赤子は命を繋いだ。


 私が赤子をあやしていると望月が寄って来て顔を覗き込んだ。

 アザについて望月がどう思っているのかはわからなかった。


「若様は赤子をあやすのが上手ですね」


「まあね。お前も抱いてみるか、望月」


 望月は自分が片腕であることを示して首を振った。

 私は「大丈夫」と言って望月の腕に赤子を抱かせてやった。


 望月はうっとりした表情で腕の中の赤子を見下ろした。


「軽い…ですね」


「小さいだろ? あ、お前、母親より先に抱いちゃったな」


 望月はハッとしてルイの方を見た。

 ルイはまだ気を失ったままだった。規則正しい寝息をたているので、気を失ったついでに寝てしまった様子だった。


 私はあははと笑うと赤子を受け取り、我が子をこの腕に再び抱いた。


 赤子も母同様にスヤスヤと眠っていた。


 …赤ん坊。私の息子…。

 そして、これはヤミだ。


 私は体を揺らしながら無意識に歌をうたいはじめた。


「その歌…」


 急に後ろで声がしたので驚いて振り向くと、ルイがいつのまにか起き上がってすぐ後ろに立っていた。

 全く気配に気が付かなかった。


「その歌をうたうと、何でも寄って来るんだよ、気をつけな」


 ルイはそう言うと、部屋の奥の方へ行ってうずくまってしまった。

 それから赤ん坊を抱こうとはしなかった。


 いわゆる育児放棄というやつだ。

 ルイはショック状態だった。本来なら私がケアしてあげないといけないのだろうけど、私はヤミの世話で手一杯になってしまった。


 赤子が泣こうが、私が呼ぼうが、ルイはとにかく寝床の隅にまるまって動こうとはしなかった。

 望月が説得してようやく食事を口にするほどだった。


 ヤミは大きな声で泣くし、意外と普通の赤子だった。


 幸いにも私は前世で娘をひとり育てた経験があったので助かった。

 私が子育ての経験のないただの若様だったらヤミは生き延びれなかっただろう。


 出産から三日目になると、ルイが乳が痛いと言って私の元へ来た。

 ルイの乳は石のようにガチガチに固く張っていた。


「乳を出さないと乳腺炎になるぞ」


 ルイは乳を出すのを嫌がったが、乳腺炎は出産より痛いものだと大げさに脅すと、少しやる気になったようだった。


「ヤミに飲ませればいいのか?」


 ルイが普通に赤子をヤミと呼んでいて笑いそうになった。

 が、ぐっと我慢して真顔で私は言った。


「その前に乳管を開通させないと」


「乳とは勝手に出るものではないのか」


「乳は勝手に出る人もいるけど、お前のはマッサージしないと出なそうだ」


 私は遠い記憶の片隅から、助産師にしてもらった乳管開通マッサージをルイにやってみた。

 ルイはものすごく痛がった。


 そう、乳管開通は痛いのだ。


 幸いルイの乳管はすぐに開通した。

 そしてヤミはようやく母親の乳を吸うことができるようになった。


 ヤミは上手に乳を飲んだ。

 乳を飲ませるごとにルイは我が子に愛情を感じるようになっているようだった。


 我が子に対する愛情と、ヤミに対する感情がルイの中でハレーションを起こしていた。


 そんな不安に覆いかぶさるように悲しい出来事があった。


 祖母が亡くなったのだ。

 ヤミの出産を手伝ってくれてから数ヶ月のことだった。


 家の者たち、特に私の母はルイとヤミのせいで祖母が亡くなったと思っているようだった。


 私の父母は一度も孫の顔を見には来なかった。


 そんな周りの状況をよそに、ヤミはすくすくと大きくなった。


 ルイの「この子はあのヤミなのだろうか」問答はヤミが二歳になるくらいまで続いたが、だんだんと言わなくなった。


 途中でどっちでもよくなったらしい。


 ヤミは健康的な子供だったが臆病だった。

 私とルイ、それから望月以外の人の姿が見えると隠れてしまうほどだった。


 家の者たちは、ルイが呪われた子を産んだということは知っていたが、その姿が見えなくなったので、死んだのでは…という噂が囁かれていた。

 私は言いたいように言わせておくことにした。


 恐らく、ヤミは自らみんなの前に姿をさらすことはしないだろう。

 いないと思われていた方が都合がよい気がした。


 我々の子の名がヤミであることも知られてはならない気がした。私はなるべく彼の名を人前で言わないようにしていた。

 自然とルイや望月もそうしているようだった。


 ヤミは四歳になっても喋らなかった。

 こちらの言葉はほぼ理解しているけれど、自分では喋らない…といった感じだった。


 言葉を発しないだけで、ヤミはこの世のことをよく理解していた。

 むしろどこまで理解しているのかな…と空恐ろしくなることもあった。


 このころからだろうか。

 ヤミが不可解な行動を取るようになった。


 傷ついた小動物をどこからともなく持ってくるのだ。

 小動物は既に死んでいる時もあった。


 ヤミはまるで私への貢物のように瀕死の小動物を運んできては治療をさせた。


 もちろん私に獣医の知識はないので、簡単な怪我の手当しかできなかった。

 それでもヤミが連れて来る生き物のうち、半分くらいは助けられたと思う。


 死んでしまった小動物は、ヤミが自ら裏の庭に埋めていた。

 とくに墓のようなものは作らずただ埋めていた。


「あれ、自分で殺して来ているんじゃないよな?」


 小さな鼠を埋めているヤミを見ながら、ある日、ルイが心配そうに私に囁いた。

 ルイも私と同じものを思い出していたのかもしれない。


 中学の授業で見た残酷な戦争映画だ。

 映画では戦争孤児となった子供が墓を作りたいがために動物を殺し始める…というシーンがあった。


 穴を掘っているヤミは、まるでその映画のワンシーンを彷彿とさせたのだ。


「いや、殺してはいないと思う」


 私は確信はできていなかったがそう言った。

 ヤミは遺骸を埋めるが墓を作らないので弔うという発想はない様子だった。

 “死” でなく “治癒” に執着しているのだ。


 ヤミはただ治したいだけだ。

 私はできるだけのことをして小動物たちを治療し続けた。


 このヤミの行動は数年続いたが、やがてぷっつりやらなくなった。


 ヤミは成長するごとにどんどんヤミになって行った。

 そう、我々の知るあのヤミの顔つきになっていったのだ。


 そうして十年の月日が経った。


 ヤミは十五になり成人したが同世代の世話役はつけなかった。

 彼は身の回りのことはだいたいひとりでできたし、我々や望月以外には顔を見せたがらず、勝手にどこかへ出かけていることも多かった。


 私は人口調査の仕事に完全復帰し、ルイも農業の面倒を見に方々へでかけていった。


 こうして平和な日々がやっと訪れたと思った矢先だった。

 ルイの目に異変が起こった。


 それはやたらと眩しがる症状から始まった。

 だんだんと昼間外にいると目が開けていられないほどになった。


 この世界にはサングラスなどはないので、彼女は薄い黒い布を目に巻いて何とか過ごしていた。

 やがて視力も落ちて、急速に彼女の目は見えなくなっていった。


 それと同時に、彼女は黒い着物ばかり選んで着るようになった。

 その姿はまるで、かつて山のお堂で見た黒い女のようで私は嫌だった。


「なぜ黒ばかり着るんだ?」


「色がもうよくわからない。黒なら安心なんだ」


 そう言われてしまうと私もそれ以上は何も言えなかった。

 ルイの視力の低下と共に、私たちの心も遠く離れていくような気もした。


 彼女は飄々として過ごしていたが、以前のような無鉄砲さは陰を潜めてしまった。

 そしていつも彼女は寂しそうだった。


 私はできるだけ彼女の傍にいて話しかけるようにしていたが、ルイは心を閉ざしてしまった。


 ルイの目は一年も経たないうちに完全に見えなくなってしまった。


 黒い着物をまとい、目隠しをして歩き回るルイは、あの黒い女そのものだった。

 ここの世界の人々には、それは「闇」の神話に出て来る夜の番人を思わせるようだった。


 そうだ、私が大嫌いなあの神話だ。


 むかしむかし。夜の番人と呼ばれる恐ろしい神様がいた。

 その神様は夜を司る存在で、夜の邪悪さと静寂を担う神だった。


 夜の番人はこの世の第六の元素「闇」を生み出した。

 「闇」は混沌から黄泉の世界を生成した。


 夜の番人は盲だった。それは古の呪いだった。

 呪いは夜の番人に不死の試練を与えた。


 永遠に滅びない肉体を持ち、果てしない時の中を夜の番人は今もまだ彷徨っている。


 そして、夜の番人がその目を開くとき、この世界は終焉を迎えるのだ。


 この世界では視力に異常を持つものは、夜の番人の呪いと関連付けられ恐れられていた。

 ルイが目隠しをして歩き回るので人々は彼女を恐れた。


 もうその目隠しはいらないのでは…と思ったが私はそれをルイに言うことができなかった。


 彼女はいたって普通に過ごしていたが、それで私は彼女との距離をますます感じていた。


 彼女が私には本当のことを言ってくれない…そんな予感しかなかった。

 私は何より、ルイに拒絶させることを恐れていた。


「シマには関係ない」


 そう言われるのを私は一番に恐れた。

 何か少しでも間違ったことを言えば、ルイは私の元を去ってしまう。かもしれない。


 だったらルイに合わせて、今までどおりのフリをしているのが一番安全なのでは…。


 臆病な私はそう考えてしまった。


 そんなころだ。

 彼女の元に、頻繁に客人が訪れるようになった。


 彼らは肢体に不自由なところがあったり、視力や聴力に障がいのある者たちのようだった。


 やがてルイは彼らと共に出かけるようになった。


 さすがに何をしているのか心配になり、直接ルイに聞いてみたものの適当にはぐらかされてしまい、それ以降は何も聞けない雰囲気になってしまった。


 ルイはもう私を必要としていないようだった。


 ルイは毎日のように出かけて行った。


 私は彼女の後を追って確かめるべきか否かずっと悩んでいた。


 私は縁側に座って毎日ルイの帰りを待っていた。


 すると、ある日、どこからかヤミが来て私の隣に腰を下ろした。

 何だかヤミを見たのは久しぶりな気がした。


「ヤミ。母さんはどこに行ったのかな」


 庭を眺めながら私は何となしにヤミに話しかけた。


 ヤミは私の方へ顔を向けるとじっとこちらを見てきた。

 無表情だった。


 何を考えているのかまるで解らない。

 それがヤミだった。


 急に強い風が吹き、ヤミの髪がバサバサなびいた。

 その姿は我が息子ながら、まるで未知なる存在にも見えた。


 ヤミは無言で懐に手を突っ込むと、いくつかの塊を取り出し庭に投げた。


 ぼとぼとぼとと地面に落ちた塊を見ると、それは鳥だった。

 全部死んでいるようだった。


 私はぞっとして鳥の死骸とヤミとを見比べた。


「これは何だ?」


 私が言うと、ヤミは少し怒っているような表情になった。


「ボクハ、ヤミ」


 そう言いながらヤミは私の腕を掴んだ。


「ルイがスキ…」


 そう言うと、ヤミの両目は三日月のように細くなり、口元が裂けるほどに横に広がった。


 それは笑顔だった。


 私は未だかつてこれほどまでに不気味な笑顔を見たことがなかった。

 私はギョッとしてヤミから離れようとしたが、腕を掴んでいるいるヤミの手にぐっと力がこもり、動けなかった。


 ものすごい力だった。


「ナオシテ」


 何を? 鳥を?


 …いや違う、ルイを、だ。


 そうだ。一貫してヤミは私に治癒を望んで来た。そういうことか?

 私にはとにかくルイを治せと言いたいのか。


 目のことじゃない。…ルイの全てをだ。


「…治したい。でも私にできるか…」


「デキル、ナオセル」


 そう言うとヤミは私の腕を放してくれた。そして人差し指を私の鼻先へと突きつけると、こう言った。


「ウタエ、手、放スナ」


 ここで只ならぬ雰囲気を感じ取った望月がやって来た。


「いかがなさいました?」


「…うん、ああ、ヤミに怒られていた。望月、ルイの行先を調べて。彼女が何をやっているか確かめよう」


 望月は一礼すると出て行った。ルイの居場所は彼が探ってくれるだろう。

 私は、「これでいいか?」の意を込めて無言でヤミの方を見た。


 ヤミはいつものヤミに戻っていて、こちらを無表情で見つめていた。


 いつのまにか先ほどの強い風は止んでいた。


「ルイを治せたらどうするつもりなんだ?」


 私が聞くと、ヤミは両手を口元に持って行き、まるでハンバーガーでも食べるような仕草をした。


「食べる? 食べるの?」


 ヤミは、うんうん、と頷きながら食べる動作を続けた。


 何となくこれは実際に肉体を食べるという意味では気がした。

 そしてはたと気が付いた。


「ルイの魂を食べる気?」


 それを聞くとヤミはニッと笑った。先ほどよりはかわいい笑顔だった。


「ダメ。ルイはあげないよ」


 そう返した声は、自分でも驚くほどに冷酷な響きだった。


 ヤミはすぐに真顔になり、まっすぐにこちらを見て彼の意思の強さを示して来た。


 その眼差しは私の全てに突き刺さった。


 無理だ。ヤミには勝てない。私はそう悟った。


「じゃあ、その時が来たら私も一緒に食べてくれ」


 それを聞くとヤミは体の力をふっと抜いて私の手を取り言った。


「シマ、タベル」


 私はヤミの体を引き寄せて肩を抱いた。


 そうか…ヤミが好きだったのはずっとルイだったんだ。

 私はおまけでしかない。


「ねえ、ヤミ。ルイの愛がほしくて私たちの子供に生まれてきたの? それならそれは違うよヤミ。無条件で愛してくれるのは母親じゃない。無条件で愛してくれるのは幼い子供だけだよ」


 ヤミは私から体を放すと驚いたような顔で私を見返した。


「ヤミ。愛はお互いが育てていくものだ。永遠に一方的に供給され続ける愛はこの世には存在しない」


 それを聞くとヤミは私を押しのけて家の奥へと行ってしまった。


 この短い時間の間にいろいろなことがわかってしまった。

 それは私にとって恐ろしいことだった。


 ヤミは我が子であって我が子でない。何かもっと別のものだ。

 何であるかはわからない。


 いつからこれは始まった?


 前世で初めてヤミが私に近寄って来た時か?

 そうかもしれないし、もっと前からかもしれない。


 私たちはこれを何度も繰り返してきたのかも…という気持ちもしてきた。

 だが、私にはわからなかった。


 ヤミを初めて認識した時、てっきり私に興味があり近寄って来たのかと思っていたけど、あれは最初からルイが目的だったのかもしれない。


 何故だかはまるでわからないけど、ヤミはルイに執着している。まあ、理由なんてないのかもしれない。

 ルイの魂がほしいけど、ヤミにはそれがまだできない。


 何かを治さないといけないようだけど…私にそれができると思っている?

 ヤミにはできないことなのか?


 私は何をしたらいい?


 私がこのまま何もしなければ、ルイはヤミに喰われずに済むのだろうか。

 …ダメだ。それではルイが救われないまま苦しむ結果になりそうだ。


「若様…」


 考え事にふけっていると、望月が戻って来ていた。


「早かったね。ルイの居場所はわかったの?」


「はい。ここから少し行った山の中に寺院の廃墟がありまして、そこに人を集めて何かやっているようです」


「解った。すうぐに向かおう」


 私は出かける前にヤミの様子を見に行ったが、彼は寝屋の奥にうずくまって恨めしそうにこちらを睨めつけてくるばかりだった。


「ヤミ。ルイのところに行って来る。お前は目立つからここで待ってろ」


 来いと言ってもヤミは来ないだろう。


 庶民風の衣装に着替えて私と望月は山へと向かった。


 山に入るとやたらと人が多いことに驚かされた。

 廃墟となっている寺院に集まっている人は優に数百は超えていた。


 目の見えない者、足や腕のない者、不健康そうな者、様々な者たちが集まっていた。


 寺院では集会のようなものが行われていた。

 仕切っているのはルイではなく見知らぬ男だった。


 男は熱心に演説をしていた。彼には特にめだった障がいはなさそうだった。


 その後ろでルイは目隠しをしてまるで教祖か何かのように座っていた。


 私は男が語る内容に耳を傾けた。


「今、天地は怒りに満ち、我々は裁かれている。真実を知る者はこの世に残り、遇者は排除される。今ここに我々のために夜の番人が自己を犠牲にして世界を救おうとされている。では我々にできることは何だ?」


「祈りだ!」


 急にその場にいた全員が声を揃えて叫んだので私は心臓が飛び出るほどびっくりしてしまった。


「そうだ、祈りだ。我々は夜の番人に祈りをささげよう!」


 男の呼びかけを合図に、彼らはハミングのような声を出してゆっくりと揺れ始めた。


 彼らの声は不協和音となって一帯に響き渡った。

 音の波動が空気を震わせ、私の頭蓋骨も震わせているようだった。


 それを聞いていると頭が割れそうになった。


 耳を塞いでも音の振動は止まなかった。


 突然の吐き気に襲われ、たまらず私は寺院から離れて森の中に入った。

 望月が心配そうに私に付き添ってくれた。


 望月は何ともないようだった。

 この声に反応しているのは私だけのようだ。

 私は胃の中のものを全て吐いてしまった。


 一刻も早くこの集会を止めさせないと…と思った。


 気分が落ち着いてきたので寺院に戻ると、ちょうど集会が解散したところだった。

 集まっていた者たちが帰ると、寺院にはルイと数名の者たちだけが残っていた。

 演説をしていた男もその中にいた。


 彼らに気が付かれないように物影から見ていると、ルイが立ち上がって歩き始めた。器用に杖を使っている。

 いつのまにあんな風に歩けるようになったのか?


 演説をしていた男がルイに向かって言った。


「番人さま、いよいよですか?」


「いよいよだ」


 言いながらルイが立ち止まって片手を差し出すと、近くにいた若い女が慌ててその手に何を持たせた。

 それを受け取り、「じゃあな」と言ってルイは寺院を出た。


 ここでルイが何をしたいのかは集会を見てもまるでわからなかった。


 ただ、彼女はすっかり夜の番人に仕立て上げられている様子で、ルイもそれを受け入れている様子だった。


 私はそれが気に入らなかった。


 …何やっているんだルイは?


 ルイが完全に一人になるところを見計らって私と望月は彼女に近寄った。


「盗み見かよ」


 我々に気がついたルイが言った。


「お前が何をしているのか気になってね」


「見てのとおりだよ」


「いや、見てもわからなかったけど」


「人助けだけよ」


「あの男は誰だ?」


「なんだシマ、焼いてるのか?」


「全く焼いていない」


「あいつは…名前なんつったかな。目の不自由な息子がいたらしんだけどさ、呪い持ちだからって家族に殺されちゃったんだ」


「ひどい話だな」


「だろ? で、まあ、同じ境遇の奴らを集めて助け合いをしたんだとさ」


「それでルイがどう関係するんだ?」


「俺が夜の番人だからだろ?」


 ルイがしれっといったので私は一瞬耳を疑った。


「夜の?」


「ああ、言ってなかったけ? 俺、夜の番人なんだ」


「ちょっと待って、何でルイが夜の番人なんだ?」


 私はこのよくわからない状況に戸惑った。

 思っていたよりも事態は深刻なのかもしれない。


 とりあえず、家に帰ってからじっくり話を聞くことにした。


 私はルイの手を引いて山道を歩いた。

 ルイはひとりで歩けると言い張ったが私はルイの手を放さなかった。


「ところで、さっき女の人から受け取っていたものは何だ?」


「あ、これか? これは黒団子だ」


 そう言ってルイは手に握っていた黒い塊を口にした。


「これを喰ってると完全に夜の番人になれるんだ」


 私はぞっとしてルイの腕を押さえた。


「そんなもん食べるなよ」


「なんで? うまいよ?」


 ルイは呑気にもぐもぐ団子を食みながら言った。

 山道を下りながら、まるでおやつでも食べているかのような調子だった。


 私はルイの手に残っている団子のかけらの匂いを嗅いでみた。


 ゴマのような香りがした。

 悪いものではなさそうだったが、得体の知れないものを平気で食べているルイが本当に心配になってきた。


 家に帰ると、ヤミが心配そうな顔をして近寄って来た。


 ルイが湯浴みから戻り落ち着くと私は望月とヤミも同席させて、ルイにこれまでのことを聞いてみた。


 彼らはやはりルイの目が見えなくなったことを聞きつけて接触してきたのだそうだ。

 さらに彼らは、ルイの子が呪い持ちであり、ヤミという名であることも知っていたそうだ。


 あの演説していた男が全体を取り仕切っているリーダーで、彼が言うには、仲間の一人がお告げのような予言のような声を授かったのだと言う。


「そう言えば、シマには言ってなかったけど、こっちに生まれてきてから、あの黒い女が時々夢に出て、“お前は夜の番人になる” って言われてたんだ」


 ルイがあっさりそう言った。


 待て待て、私は聞いてないぞ…と思ったが、つっこんで聞かなった私が悪い…。


 私がルイとの関係性をもんもんと悩んでいる間に事態はずっと進行していたのだ。


 彼らは彼女を夜の番人に仕立て上げることを何年もかけて計画していたのではないか。

 私はルイの話から彼らのあまりに段取りのよいやり口にそんな疑惑を抱いた。


 しかもルイが拍子抜けなほどに軽いところが恐ろしかった。


 洗脳…それに似た技術を彼らは持っているのではないだろうか。


「もうあの集会に行くのはやめてほしい」


 私がそう言うと、ルイは意外にも素直に前向きにそのことを考えてくれた。


 ただし、やはり急には止められないから明日行って相談すると彼女は言った。


「それで、あの人たちを納得させられるのか?」


「うん、たぶん、大丈夫」


 私は疑うべきだったのだ。

 だが私はしなかった。


 翌日、私たちは再び庶民に扮して集会に参加した。


 ヤミは朝からずっと姿を見せていなかった。


 集会が始まると、昨日とは少し様子が違っているようだった。


 リーダーの男は演説をすることはなく、ただ、「門出を祝おう!」と言った。


 そして、また例のハミングが始まった。

 私はこれを予測して耳に詰め物をしてきたのだが、無駄だった。


 彼らの不協和音は私の頭を貫いてきた。


 この音にダメージを受けるのは、やはり私だけのようだった。

 昨日、このハミングについてルイに聞いておけばよかったと思った。


 私はたまらず、また会場を離れて吐いた。

 吐き終わって会場に戻ると、ルイの姿がなかった。あの男もいない。


 そして人々がゾロゾロと山を登っていくところだった。


 私と望月は慌ててルイの姿を探した。


 ルイは人々の先頭に立って山を登っていた。

 黒い着物に目隠しをしているので遠くからもルイだとすぐにわかった。


 そのすぐ後からリーダーの男や他の者たちが続いていた。


 私は必死で人々をかき分け山を登り、できるだけ先頭へと近づいた。


 先ほどまでの吐き気は治まり、嘘みたいに私は元気になっていた。


 どれくらい山を登っただろうか。

 この辺りの山はそこまで深くないはずなのに、様子がおかしい…と思い始めたころに、小さなお堂が見えてきた。


 見覚えのあるお堂だった。


 それは前世の私とルイが、ヤミに案内されてあの黒い女に会った場所だった。


 私はぞっとしてすぐにルイを引き留めようと前進したが、同じように周りの人々もお堂へと殺到しはじめたので、全く前に進めなくなってしまった。


 人々は押し合いへし合いして、何とかお堂へと近づこうとしていた。


 その時だった。


 何か得体の知れない力が体の上にのしかかって来る気配がした。

 急に体が重たくなったような、巨大な何かが背中に乗っかっているような感じだ。


 たまらず私は膝をついた。

 横を見ると望月も同じようにしていた。


 周りの人間全て同じ状態の様子だった。


 胸が押しつぶされそうで、声も出せなかった。


 あたりは静寂に包まれた。


 前を見ると、唯一ルイだけは普通に立って歩いていた。

 お堂に向かってゆっくり進んでいく。


 あのリーダーの男も動けなくなっている様子だった。


 ルイがお堂の真ん前に立つと、私たちの見ている前でお堂の扉が開き、中から真っ黒な着物を身にまとった老婆が出てきた。

 女の顔はどす黒く汚れていた。土でもこすりつけたような顔だった。


 よくは見えなかったが、女の目には棘のようなものが無数に刺さっているようだった。


 それで私は思い出した。


 あれは土じゃない。血だ。


 ずいぶん皺くちゃになっているが、前世で私とルイがあったあの女だった。たぶん。


 ルイは女が出て来ても驚いてはいないようだった。


 ただ立って、お堂から出てきた女を無言で見つめていた。


 同じような黒い着物を着て向かい合っている二人がとても似ていたので私は恐怖に震えた。


 そこへ、どこからかヤミが現われた。

 彼は絶望に満ちた表情をしていた。


「ごくろうだったね」


 皺くちゃの女がヤミに言った。

 よぼよぼの婆さんにしてはよく通る声だった。


 ヤミは無言でルイを見ていた。

 悲しそうな顔だった。


 地獄から抜け出せないことを悟った者の顔をしていた。


 ルイは無表情で立っていた。


「さあ、はじめようか…」


 女がそう言うと同時に、ヤミがこちらを見た。

 そして私を見つけると、まるでロウソクの火を吹き消すかのように、口をとがらせて、ふうっと息を吐く素振りをした。


 その瞬間、私の体がふわりと軽くなった。

 のしかかるような力が抜けたのだ。


 私はすぐさまルイの元へと走って行こうとしたが、周りの人々に挟まれて身動きが取れなかった。

 それはまるで、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の中にいるようだった。


 声を出そうとしたが、声は出なかった。


 横を見ると望月もどうやら体は自由になっているようだった。


 老婆がルイの両手をとり、何やら呪文のような言葉をぼそぼそと言い始めた。

 何と言っているのか、今度はまるで聞き取れなかった。


 老婆が言い終わると、周りにいた人たちがグチャッと音をたてて潰れてしまった。

 それは上から巨大な圧がかかり押しつぶされたという感じだった。


 そこら中に人々の血が飛び散り、肉片が飛んだ。


 私はそれを頭からかぶってしまった。


 あまりの出来事に私の思考は一瞬停止した。

 悲鳴を上げようとしたが声は出なかった。


 望月が私の袖を掴んできた。


 望月は何ともないようだった。彼は無事だった。


 望月も私同様に血肉にまみれていた。

 彼の目は私に「冷静に、動かないで」と言っていた。


 私はゆっくり息をはくと、できるだけ心を落ち着かせてお堂の方を確認した。


 人々が潰れた瞬間に何があったのかはわからないが、老婆が地面に倒れていた。

 そしてルイは、高らかに声を上げて笑っていた。


 その下品な笑い声を聞いて、私はあれは既にルイではないと悟った。

 どういうことなのか解らないが、老婆がルイの体に入ったようだった。


 ルイがどこに消えてしまったのかはわからなかった。


 私は今すぐにでも飛び出してルイを取り戻したい衝動に駆られたが、望月が強く私の袖を引いた。


(若様…行ってはなりません)


 望月の視線はそう訴えていた。


 …手遅れ。そう、もう手遅れだ。


 私は失敗したのだ。


 どこで間違ってしまったのだろうか。

 私はこれまでの人生を顧みた。過ちはいくらでもありそうだった。


 前世においても、今生においても、私はずっと間違っていたのだ。


 ヤミがこちらを見ていた。

 その表情からは何も伝わってこなかった。


 女がルイの体を使って歩きはじめた。

 彼女がお堂の前を右側に向かって歩くと、音をたてずにお堂も一緒に回転をはじめた。


 それはまるで凝った造りの演劇の舞台のようだった。

 女の歩みにあわせて空間自体が我々の場所と切り離されて一緒に回転しているのだった。


 ヤミも女について歩き始めた。

 ヤミはもう、こちらを振り返ることはなかった。


 女が向こうに歩いて行ってしまうと、お堂はゆらゆらした蜃気楼のようなものとなった。

 残された地面には老婆がひとり倒れている。


 私はもう動いてもいいだろうと判断し、肉片の山から顔を出して老婆の元へと向かった。

 私の横で望月も同じように立ち上がった。


 老婆の元に行くためには、元々人だった肉の塊を踏みつけていく他なく、おぞましかった。


 やっとのことで老婆の元へと辿りつくと、彼女は生きているようだった。

 抜け殻になったわけではないようだ。


 老婆はうっすらと目をあけて、私を見た。

 そして、こう言った。


「…シマ…」


 全身から血の気が引いて寒気がした。

 私は震える腕で老婆を抱き上げた。


「ルイ? …ルイなのか?」


 私は老婆に話しかけた。

 老婆はよぼよぼの手を伸ばして私の血まみれの頬に触れると、もう一度消えそうな声で「…シマ」と言った。


 そして、そこで彼女はこと切れてしまった。


 呼吸と心拍が止まっていた。


 私はパニックの波が襲ってくるのを感じ取りつつも、必死で老婆に心臓マッサージをした。

 だがルイの意識の入った老婆は二度と目を開けることはなかった。


 私が絶望に打ちひしがれていると、望月が私の背中に触れ小さな声で「若様、あれを…」と言った。


 望月が指さす方を見ると、そちらにはまだゆらゆらとゆらめくお堂の影が見えていた。


 その向こうに人影が見えた。


 よく見えなかったが、それは、ヤミと、あの女…ルイの体を奪った女と、それから二人の若い男女が立っているように見えた。


 それは、前世の私とルイだった。


「あれは…前世の私とルイだ」


 望月にだけ聞こえるくらいの声で私は言った。


 しばらくそうして向こうの世界がゆらゆらと見えていたが、やがてそれも消えてしまった。


「行こう…」


 私は望月を伴って山を下りた。


 血まみれで山を下りた我々に待っていたのは悲惨な現実だった。

 当然だが誰も我々の話は信じてくれなかった。


 あのお堂はすっかりなくなっていたが、集まっていた人々が惨殺された現場はしっかり残っていた。


 邪神に心を奪われた私が、妻子を殺し、さらに集まった人々も皆殺しにしたと人々は信じた。


 望月は無実の罪を晴らすために冷静に動き回ってくれたが今度ばかりは何ともできなかった。

 やがて望月も共犯ということにされてしまった。


 私は望月の身を案じ解任して故郷に帰そうとしたが時すでに遅しだった。

 望月にはもう帰る場所がなかった。


 私は全てに絶望してしまった。


 もう何もかもが恨めしかった。

 こんな世界に生まれたことも、夜の番人だか何だか知らないあの女も、ヤミに見初められてしまった自分たちも、望月を世話役にして巻き込んでしまったことも、ルイの手を放してしまった前世の自分も今生の自分も憎かった。


 そうして私が自ら命を絶とうとその方法を考えていると、私に一通のお達しが届いた。


 私はこの通達に大変動揺させられた。


 それは、私と望月の処刑が決定したことを伝える内容であり、さらに、世話役である望月が私の処刑を自ら執行するのであれば、望月の死罪は免除とする、と記されていた。


 なんと残酷な世であろうか。

 しかし、これはここではよくある刑罰と免罪符なのであった。


 この世界での死刑の執行方法は斬首刑である。


 私はこの判決の内容を望月に伝えると、彼は震えながら「私にはできません」と言った。


「若様の首を切り落として自分だけ生き延びるなど、私にはできません」


 望月は片手をつくと、額を床にこすりつけるようにして言った。


 望月ならそう言うだろうと私はわかっていた。

 私がいくら命令したところで聞かないだろう。


 私は望月を説得するのを諦めた。

 これがもしも逆の立場だったら…私は、望月の首を斬って自分だけ生きていけるとはとても思えなかった。


 私は望月に言える言葉が見つからずにただ泣いた。

 私と共に生きてくれたことを感謝していると伝えたかったが、私のせいで処刑される運命を背負わせてしまった者には言えない言葉だった。


「若様…共に行きましょう…ルイさまの元に」


 望月はそう言った。それがどういうことなのか彼にはわかっていたのかもしれないし、知らずに言ったのかもしれないが、とにかく望月はそう言った。

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