第3話え?初出勤ですか?


こんな大きい塔。いえ。これはビルというんでしたね

これが私の職場というやつですか…

未知がわからないので事前に来てみましたが、時間前なのにすごい人です...


「そんなところでぼーっと突っ立って何やってんすか?」


「え?あ。はい」


後ろから不意に声をかけられて顔を向けたらいかにも元気ですって感じの茶髪の女の人が立っていました

しかもなぜかしきりに鼻をスンスンと鳴らしています


「就業30分前に朝礼に参加しないと給与天引きで罰金っすよ」


「それは労働法に...」


「ないっす。そして今は35分前。あと五分しかないので急がなきゃっすね」


目の前の女の人は私の手を引いて会社の中に入っていく

どうやらこの人は私を知っているみたいです


けど...私はこの人を見たこともありませんし...


「あの」


「あー。分かってるっす。大丈夫っす。とりあえず朝礼を終わらせた後っす」


私の言葉を遮って女の人はずんずん前に進んでいく

エレベーターというものにも初めて乗ったけど、空を飛べる魔物はいつもこの浮遊感を味わってるんですか

なんだか慣れませんね…ヒュッとします


『黒塗商事』


エレベーターを降りるとそこには大きなプレートが掲げてありました

ここが私の会社ですか…。労働は嫌いな方ではないので少し楽しみではあります

この世界での仕事というものが


「おい!三首!小部!!新入社員が俺より遅いとは何事だ!!!」


降りた瞬間奥の男性から発せられたのは大きな怒声

え?なんで私今怒られてるんですか?


「あー!すいませんっす!道でお婆ちゃんが転んで実家の犬も死んで朝から生理で貧血まで起こしてしまったんす」


「あ?婆なんて捨て置け!利益重視!犬はいつか死ぬ。飼う方が悪い。それに女だからって生理なんぞに甘えてんじゃねえ!血が出てもへどはいても貼ってでも来るのが会社!俺ら仲間だろうが!」


「あー。あはは、あ!朝礼始まっちゃうっすよ!」


「ちっ...」


なんだか男の人が言っていることはものすごくめちゃくちゃなのは私にもわかります

それを慣れた素振りでかわしてるこの女の人は強いっすね…


「あ。小部ちゃんは私の横の席っす」


不意に手を離されて女の人が立っているよこの机の前に立つ

インターネットをする機械や書類が乱雑に置かれていて、元の世界の工房を思い出す様相だ


「とりあえず驚かないでくださいっす」


耳打ちをされた直後。ありえないほどの声量で朝礼の幕が上がった


「おはようございます!!!!今日も仲間一丸!商品を売り!お客様をサポートし!そして仲間の結束を強めましょう!!!」


「「「「おはようございます!!!!今日も仲間一丸!商品を売り!お客様をサポートし!そして仲間の結束を強めましょう!!!」」」」


「会社の幸せは社員の幸せ!!!」


「「「会社の幸せは社員の幸せ!!!」」」」


「小さな不正はどこでもしてる!責任負うのは会社のために!!!」


「「「「小さな不正はどこでもしてる!責任負うのは会社のために!!!」」」」


「会社は命!命は会社!」


「「「「会社は命!命は会社!」」」」


なんだか地獄みたいな呪文を大声で唱える皆さん

言っていることの筋が通ってないことくらい私でもよくわかるっす...


「おい小部!声が小さくないか!?」


とりあえず言っていることを復唱しているだけの私にさっきの男の人が指を突き付ける

え?また怒られるんですか?


「私の声が大きすぎるっすからです、それに小部さん喉にオリーブができちゃって喋るのすら大変なんすよ」


「ポリープだバカ女」


怒られそうになっている私をまたしてもさっきの女の人がかばってくれた

この人はまともな人なんですかね



―――――――――――――――


そこからは地獄でした。

電話を取れば商品の苦情、慣れないインターネット機械の操作

何もしてないのに浴びせかけられる罵声


「...どうして」


ほんとうに言葉通りです、つい口から洩れてしまいましたがどうしてこんな目に?

家のテレビで見ていた後継とは全く違うものがこの場では繰り広げられてます


「小部さん。もうすぐお昼だからおべんと食べに行くっす」


そんな途方に暮れている私に横の女の人はそっと助け船を出してくれました

良い人だ...なんだか族長に見えてきました


「でも仕事覚えるのが速いっすね」


「まあ...細かな作業などは慣れてるので...」


「やっぱりゴ...じゃない。できる新人は違うっす」


一瞬何かを言いかけて別の言葉に変えた。

何を言おうとしていたのかはわからないですけど、なんだかここに来て初めて褒められたのでとても気分が良いです


「とりあえずお昼まであと数分、こっそり抜け出しておべんと食べに行くっすよ」


カタカタと機械の音が鳴る中小声で女の人はそういってインターネットの機械と向き合う作業に戻った


―――――――――――――――


「そ。で、朝のが部長。諸悪の根源地獄の魔王っす」


お昼になったと同時に生理でここを血まみれにしてやるからな!と謎の脅迫をした彼女は三首けなみという私より少し先に入社した先輩らしい

どうも私のお世話を買って出てくれてるみたいで


「で、仕事に使ってるのは主にパソコンとキーボードっていうっす」


何も知らない私にとても丁寧に色々なことを教えてくれる


「あと部長の機嫌が悪い時は近寄らないことっすね」


「魔法も極力ダメ」


「なるほどですね、ふんふん」


「後は会社には一時間前くらいに来てるのが起こられないポイントっすね」


「ありがとうございま――――」




「魔法って言いませんでした!?」


いろんなルールを教えてもらっている中ですべてメモに取っていましたけど

その中に魔法という言葉が書いてあって

それは確かにこの三首さんが発言したことで



「言ったっすよ。ゴブリンの魔法は種類が有れど職業向きっすからね」


「ばれたらマジでやばいっす、NASAとかFIFAとかに売られて人体実験すよ」


「いやいやいやいや、え?なんでですか!?」


「だってウチもケルベロスっすから」


ケルベロスってあの三首の!?

居やけどこの人は女の人で首は一つで、それに犬っぽくない...


「村のニンゲンに討伐されたと思ったらこっちにいたっす」


「そっからはいろいろ勉強したりなぜかうまい事調節されてたりでここにいるっす」


「驚きました...でもどうして私がゴブリンだってわかったんですか?」


「朝のにおいっすね、こっちの世界にきていろんな能力が使えなくなってたすけど、匂いから判別する能力だけは使えたっすから」


「だから朝あんなに鼻を?」


「もちのろんっす」


突然の転移者が急に目の前に現れたことに驚きが隠せない

けど、この様子ならほかにもいるってことですか?


「あの…ほかに同じような人は?」


「それがわからないんすよ、人が多すぎで匂いが混ざって難しいっす」


「ならなぜ私を?」


「それもわからないんす。今日ここに居たらあえる気がして、で。新入社員でってことが急に頭に」


認識改変魔法?けどそれだとしたらこの転移を起こしたのは相当なソーサラーということに

けど何の目的があって?


「認識改変魔法ですか」


「...っすかねぇ。けどそうだとしても看破する手立てがないっすから」


そう、認識改変魔法はかけられても解く方法がない

本人の認識が挿げ替えられているのだから当然の話ですが



「ってやば―――お昼!終わっちゃうっす!」



話したいことはまだ山ほどあったけど怒られるのも嫌です

とりあえず仲間が一人できたと喜んでいいんでしょうか?


そんなことを考えながら私たちは急いでフロアに戻りました。


もちろんですがそのあと部長には死ぬほどお説教をされました

どうしてこんな目に私が...。

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