勝算

【今まではパルシュを信じて待つばかりだった、パルシュの肩にどんな重荷があったか私はしらない、今度は、私が!!】

 すべての意識を自分だけに集中して、魔力を解放した。杖は光を放ち、目を閉じていてもその閃光がまぶたから漏れ出すほどだった。

《ズドオオォオオオン》

 やがて、自分の魔力にふきとばされそうになり、そこでやっと目を開ける。

「パルシュ……大丈……!!」

 彼女は目を疑った。たしかにトマスはもだえ苦しみ、両目をおおっているようだった。そして彼からは影の気配が消えていた。しかし、その一方でパルシュは、パルシュの心臓には……剣が突き立っていたのだ。

(!!!)

 遅かった。絶望して地面に膝をつく。

“アレポ!!!その杖の力を放出して……!!”

「なんで……」

“アレポ!!これは重要な事なのよ!!その杖の力を放出しきる事が必要なの、そうすることで“儀式”はおわる、その杖の中に、魔王の意識があるから”

「そんなの、どうだって……」

“アレポ!!説明する暇はない、この世界が、彼のいた世界がどうなってもいいの!!”

 アレポは、苦虫をかんだような顔をして、しかし杖を憎々しそうにつかみ、天に掲げた、そしてまたありったけの杖にのこされた魔力を天に放出した。それは光をはなち、やがてわずかばかりの黒い霧を放出すると、プシュウという音をたてて、力つきたようになった。

《バタッ》

 地面に崩れさるアレポ、トマスが意識を取り戻し、パルシュの剣から剣をぬいた。台地をかこっていた村人たちはかなしんだり、目を背けたり、村に帰ったりした。

「パルシュ……どうしてこんなことに、これじゃあ、意味がないじゃない」

 両目を両手でおおって、泣きだすアレポ。トマスは彼女に近づき、そして、肩にふれる。

「すまない……こんなやり方でしか“解決”できなくてね、俺たちは“魔王”に立ち向かい、ある目的を達成しようとしているんだ」

「……」

 ふと、トマスがアレポに顔を近づけ、耳打ちをした。

「村人に“敵”がいるかもしれない、だから“気づかれないようにしてくれ”だがパルシュをよく見ろ」

 ふと、アレポはパルシュに目を向けた。体は変色し、その一部が泥の様に崩れた。

「!!」

「そうだ、あれは“泥人形”だ、はじめからパルシュは“繭”の中に封印している、もちろん当人の同意済みだ」

「パルシュは……」

「そうだ、だが今は気づかないふりをしろ、そしてあの“遺体”をかかえて、この場を離れるんだ」


 



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