結末

 パルシュは剣を放りだした。その時だった。背後にずしりとした感覚を感じたのは、そしてそれは、腹部全体にあたって広がっていくように感じた。

「これは……まさか」

 それは懐かしい感覚だった。あのダンジョンで感じたのと同じような。

「トマス!!!」

 アレポが叫んだ。そこでふりむくとアレポは自分のすぐ後ろにいた。そしてその姿勢から何がおこったかわかった。

「トマス……貴様」

 彼は、にやにやとわらっていた。パルシュを後ろから刃物で突き刺していたのだった。

「“魔王”は贄をもとめる……すなわち“罪人すべての死”だ」

 パルシュから剣を抜き取ると、パルシュはその場に倒れた。

「どうして!!」

 アレポが叫ぶと、そばにいたエリーがいった。

「避けられなかったのよ……そう、彼は“罪”をおかし“呪印”を刻まれているから、こうなることは避けられない、トマスは……かつて禁をおかしてから、魔王に逆らい続けているけれど……魔王を殺すとき、必ず自我を失う」

「それって……“ギフトマン”は噂通りってことじゃない、あなた、どうしてとめないの!!どうして……!!」

「彼をとめたければ“罪人”でないあなたがどうにかするしかない、ホラ……」

 エリーが指さす。よくみるとトマスは、消えた魔王が残した黒い霧につつまれて、操られているようだった。目が真っ黒になっており、自我がないようだった。

「まだ傷は浅い、パルシュが完全に殺されるまえに、あなたがなんとかするしかない」

「でも、どうやって……」

「その杖よ」

「杖?」

 ふとみると、パルシュのそばにノースが倒れており、その腰から杖がぶらさがっていた。

「あの杖って」

「そう、あなたの祖母の、そしてあれは……シャーマンとしての杖」

「でも、あれはどうやって使えばいいかわからない」

「簡単よ……杖に念じるの……“罪を許すって”……」

「!!そんな!!」

「早く、またトマスが力をためているわ!!」

 アレポは急いでノースの死体に近づき、杖を手に取った。杖はいつもよりずしりと重い気がした。しかし杖を動かすと周囲をただよう黒い霧が杖をよけるように動いているのがわかった。

「これは……いけるかもしれない」

 アレポは目を閉じる。エリーの急かす声が聞こえる。しかしそれをほとんど無視しようときめた。なぜなら、そうしなければ結局集中などできないと思えたからだ。アレポは、パルシュを許そうとした。しかし、色々な考えが浮かぶ。嘘をつかれていたこと、両親を罪にささげたこと、こんな自分を許したこと、そして自分自身が自分を許せないことに気がつく。しかし、あの時の事が思い浮かんだ。ノースを一緒に殺したとき、アレポは、パルシュが一緒に生きてくれてそれだけでいいと思った。そのことを念じて、アレポは彼を許し、罪を抱え共に生きていこうと誓ったのだった。



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