喪失感

 ノースは一瞬目を閉じる、パルシュにそう提案しながら、心の中では決着はもう着いたものだと思っていた。


 パルシュは、じっとノースの様子をみる。彼は右腕をかばうだろうか?左手でつくだろうか?だが、パルシュは、あの時、ダンジョンに捨てられた時、ノースのその残忍で冷徹な面に、ある違和感を感じていた。


「いくぞ!」

パルシュは、心を決めた。冒険者として力をつけると決めた日からこうした命のやり取りが日常茶飯事になる覚悟はしていたのだ。パルシュもまた。剣を構えた。


ふと、ノースがふりむいた。その一瞬、空気がピンとはりつめた。その最後の一撃は左側からきた。

“左手!!”

 しかし、パルシュは予想していなかったのか魔力の生成は間に合わず、かろうじて剣をいなしただけ、パルシュの右腕は深くきりつけられた。

「パルシュ!!!」

  叫ぶアレポ。

しかし、パルシュは動揺しなかった。それでも信じていたのだ。ノースはいったん剣を引きもどすと、再び構えた、左、にみせかけて瞬時に態勢をいれかえた。そして、剣は突き出された。脆い右手を使い諸刃の剣と化したその一撃。その瞬間を、パルシュは待っていた。

「うおおおおお!」

《ズブウッツ!!!》

 パルシュの脇腹を、その剣は突き刺した。

「パルシュウウ!!!」

 しかし、パルシュはものともせず、そのまま前へでて、自分の剣をノースの右腕に突き立てた。

「これで!!終わりだ!!!」

《ズザアアアアアッ》

 勢いよくふりおろされた剣、ノースの“影”でできた右腕が崩壊する。そしてノースは、その場へ崩れ去った。

「見事だ、パルシュ……」

 パルシュの脇を見るノース、それは正面からみると、よこにそれ、散ったかに思えた血しぶきは先ほどの怪物―ゴルドの怪物をパルシュが脇に抱えていたことによるものだった。パルシュはかならず右の突きがくることを予見し、傍にその破片をおき、魔力だけで勢いを殺すことをあきらめ、その死骸で勢いを殺し、そして、魔力はすべて相手の剣先をそらすことに集中したのだ。


(やっぱり……)

 パルシュはこう考えていた。ノースは、確実に“フェイントでとどめを刺したりはしない”ノースは、もしかしたら、あのダンジョンでの悪行の首謀者ではないのではないだろうか。なぜならあのダンジョンに置き去りにしたとき、去り際に憐れむような目を向け、小剣を放り捨てたのは彼だったからだ。


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