秘密

 人々が散り散りにいなくなったあと、パルシュとアレポは向いあって呆然としていた。言葉をみつけられないパルシュに、アレポは声をかけた。

「ねえ、大丈夫……」

「アレポ……君も一緒にきてくれないか?」

「え?」

「お願いだ、僕が裁かれるとしても、君がいればそれでいい」

 トマスは背後でその様子をみており、近づいてきて、こういった。

「もとより巫女は私が守り、私の傍にいるつもりだ」

 パルシュは、トマスのほうをむいて頷く。

「ギフトマン……大人の話を盗み聞いたこともあったが、あるたとえがその通りだな、”あれはおとぎ話ではなく、おとぎ話のような夢を断つものの話”だと」


 トマスのいう事もあって、アレポとパルシュは台地にキャンプセットをもって向かった。

「ここの方が安全だ」

 というので、その通りにしたのだが、吹き曝しで、身を守るものもなく大丈夫かとおもったが、どうやら台地は結界がはってあるようだった。


 その夜、獣のような姿のものたちが、村中を駆け回る。しかしそれは実体のない影のようであった。それは先に村長の家に現れた。明かりにてらされて確かに異形だった。種々の動物の影のようにみえるが、立体的で渦をまいている。応戦して魔法をつかったり、逃げ回ったりする村長だったが、ついには地下室の奥底までおいたてられ、悲鳴をあげる。

「ひぃ、ひい!!」

 その村長に、影がせまりくる。


 また一方でノースのいる診療所にもそれはきた。ノースは物音で目が覚めると部屋の入り口から大勢の光る目がこちらをみている、逃げようと窓へてをかけ、妙な感触がしてみると、やはりそちらからも大勢の影がこちらをみている。

「うわあああ」

 と声をあげる。するとその影は、ノースのありとあらゆる穴、目、鼻、口、耳へと勢いよくむかい、黒い霧になってその中へはいっていくのだった。ノースは、全身にすさまじい痛みが走り、しばらくして目を覚ますと、右手に異変が感じる。そして、妙なことに、声が聞こえるのだった。

「ノース……ノース」

「その声は」

「そうだ、私だ……もうすぐ、お前も仲間になれる"影の災厄"の仲間に」

 ノースは右手に違和感を感じて、よくめをこらしてみると、月明りにてらされた右手は、真っ黒の、影のようなもので形づくられていて、痛みが完全に消え去っていたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る