奇跡
ウバ族は、あらかたの人間をかたずけおえると、突然一斉に一か所をむいた。
「ウッ」
それは、ノースのいる方向だった。ノースは一瞬後ろをむき、逡巡したが、しかし、仲間に言った言葉は本心だった。
「まさか……“祭り”に俺に知らない決め事があっただなんて、俺はあまりに甘かったようだ」
バッグから、色々なものを取り出した、魔導書、剣、ありとあらゆる武器になりそうなものを。
《クフウゥーー》
見るからに強そうなガタイのいいひと回りほど大きなウバ族の人間が、彼をじっとみつめると、ほかのウバ族の肩をつかんではおしのけ、ゆっくりと前に踊り手で来る、そして、ノースの目の前で、大きく息をはいた。
《フシュウウゥウウ》
すさまじい悪臭と、すさまじい“マナ”の魔力。それをあびただけで、くらり、と立ち眩みして、それでも思い切り右手に持った剣をふりあげた。それは、ウバ族の鼻にあたり、その鼻を引き裂いた……かにみえた。
しかし、その鼻には傷の痕跡はなく、刃の感触をたしかめるとたしかに柔らかいものにあたったかにみえたが、またその奥の堅いものにあたったようにみえた。
「マナのヴェールか」
強いマナを持つものは、マナのヴェールをまとい戦うという。英雄の中にそうした人間が稀に表れる事を聞いてはいたが、いざ目にすると、圧倒的なつよさと、そのヴェールが柔らかいようにみえて、その深部が鬼のように堅いという事がわかった・
「くそ、これじゃ、刃もとおらねえ……」
ふと、バッグをてにとった、今までだした魔導書や武器、剣はほとんど役にたたないだろう、ウバ族にそれをいっせいになげつけると、振り向いて勢いよく走りはじめた。慌てて騒ぎだすウバ族たち、だが、あの巨大な一体だけは、静かにその様子をみていた。そして一言放った。
「ノー……ス……」
その声をきいて、ノースは一瞬たちどまった。巨大なウバ族、そして、その体格、右目の傷……それは、覚えのある人間のソレににていた。かつて、冒険者として旅をし、ウバ族と対立し、死んだという……父親に。
「父……さん??」
「ノー……ス」
ゆっくりとちかづいてくる。ノースは、村の外壁にふれて、ペタン、とへたりこんでいた。
「父さん、父さんなのか?」
「フ……フシュウ……」
ノースは、そのまま父親が近づいてくるのをまった、そして右手をのばしおそるおそる、その顔に手を近づけた。父親は、その右手を掴み……自分の頬に近づけると、勢いよく……握りつぶした。
《ブシャア!!》
「うああああああああああ!!!」
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