異変

 また別の場所で。トマスは洞穴の奥に基地をつくっていた。魔法によって岩肌に偽装されたその奥に、様々な魔法科学の器具やらがならべたてられ、部屋の中央に魔法陣がある。そこにトマスはおもむろに腰を下ろした。


 村に帰って、しばらくしてそれからの事だった。パルシュとアレポは、村人に、特に若い村人から嫌な目で見られる事が多くなった。ひそひそ話をしていたり、自分たちを避けたりしている。何か奇妙だなと思っていたその夜、パルシュの家にアレポは立ち寄って、この話を持ち出した。

「ねえ……村を出た方がいいのかな」

「いや……それはまずい……僕は君を守れないし」

「でもあなた、トラウマがあるじゃない……どうして、そんなにがんばるの?」

「それは……」

 パルシュは黙っている。かつて、老婆エルドとした約束もある。そして今の自分の実力では彼女を守ることもできない。それに村長は厄介だ……。村を出たとしても彼の権力は、そこそこ力を持つ。

「もう少しまってくれ……必ず君を守る」

「……」

 

 二人は別れた。そして、アレポは自分の家に帰り、扉を開けた瞬間に、後ろからよびとめられ、ふりむく。

「アレポ」

「?」

 と同時に、布をかぶされたのだった。


 意識は遠のき、やがて、自分が薄暗闇にいる事を確認する、顔の布ははがされたようだが、後ろでに縄を縛られているようだ。それに壁にもたれかかっているがひどくつめたい、まるで鉄格子だ。やがて目が慣れてくるころ、近くで声がした。

「アレポ……」

「パルシュ?」

 その姿が月明りに照らされるころ、二人は目を合わせた。

「僕ら、つかまったみたいだ」

 アレポはその瞳にそれが牢であることを確認すると深く絶望のため息を吐いた。


 深夜、その集会は行われていた。

「この村の裏切り物を知りたいか!!」

「おおお!!」

「この村の新の権力者を知りたいか!!」

「おお!!」

「それはノース様だあ!!」

 ルアンスが声を上げると、また観衆がそれにこたえる。観衆たちは、皆冒険者を目指す血気盛んな若者たちだった。

「ククク……」

 そのそばで、心配そうにイベラが尋ねる。

「ノース、やりすぎじゃない……?この興奮を、あなた制御できるの?」

「おい、イベラ、俺がカリスマに見えないってか?」

「そうじゃない……そうじゃなくて、あなた、一体どこまで何をするべきなの?」

「ふん、そうだな……転覆かな、そう、必要な要素はそろっている、“力”“秘密”そして……“チャンス”」

 ノースが手を伸ばす方向には、巨大な青い魔力を纏う黒い雲が迫っていた。この世界でしばしばおこる“天災”だ。

「俺は新しい司祭、そして村長になろう、必要なのは、血と制裁だ」

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