懇願

 その杖を持って、家をあとにした。すぐさまある場所にむかった。


 宿泊所では、朝支度をおえ、ノース一向が食堂で食事をしていた。

「話は変わるけどよ、“ギフトマン”なんて伝承を信じるなんて、アホだよなあ、勇者志望者が、そんなものいるわけねえのになあ」

 ルアンスがノースに尋ねる。

「いや……いるぞ……」

「え?」

 意外な返答にイベラが反応をする。

「ああ、やつらの心の中に……弱い奴の心の中に」

「もう!!」

 とイベラが小突く。

「いや、真面目な話、いるらしい、神の力か龍の力を使う奇妙な存在で、だが、ろくでなしって話はあるよ」

「ろくでなし?」

“タッタッタッタッタ”


 その時、食堂に一人の少女が駆け込んできた。

「おいおい」

「またあなたなの、アレポ」

 不快さを隠さないイベラ

(あなたが優しくするからじゃない)

 と小声でノースにつぶやく。

「なんだ?」

 ノースは真剣な顔で机の上に手を組んで、食事の手を止めた。

「あなたにお願いがあるの」

(おい、おいだせよ)

 とルアンス。

「かまわん、いってみろ」

 そういうと、食い気味に前へでて、いった。

「この宝をやるわ、だから、私を彼のもとに連れて行って、そしてもし彼が生きていたらたすけて、死んでても……これはあげるわ」

 にやり、とノースは笑った。


 また別の場所で、森の奥、青々とした魔力の地脈が流れる場所の傍に、彼はたっていた。トマスだ。彼は腕をだす。その腕も足も、肌はグローブやブーツ、布や包帯で隠されていて、服はマントを背負っている、冒険者としても少し異様な姿格好だ。だが異様さは彼が手を伸ばした時にまたあらわれた。

“ブゥウオオオン”

 彼が魔力の地脈に手を近づけると、その一部が隆起して、風船状に膨らみ中に巨大な結晶のようなものがあらわれた。

「やはり、君のほうが早い、僕がいくら……いそいでも」

【トマス……】

「エリー……すまない」

【トマス、いいのよ、私が心配しているのはあなたの体の異常だわ】

「こんな僕を心配してくれるなんて、君はいつまでもやさしい、この世界で一番、温かい」

 トマスはその結晶に体を近づける、瞬間結晶は縮んでいき、元の地脈の流れに戻った。


「だれだ!!!」

 ふと、後ろから声がかかりトマスは振り返る。

“ガサ、ゴソ”

 重厚な防護服をつけた人間が、地脈に近づいてきた。

「見間違いか?そうだよな……地脈にこんなに近づけるなんて……柵でおおって注意の看板もたてていたし、何より防護服もなしに、体や心がまともでいられるわけがねえ」

 そう言い残すと、その男もその場所をあとにした。








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