謎のモンスター
「当摩さんのジョブ鑑定の結果出ました」
「ええ、どうかしら?」
冒険者がごったがえす、夜の冒険者ギルドでオカ研の四人+奴隷一名が顔をあわせていた。
クエストを終え日々の勤労をねぎらって、酒を飲む冒険者や、彼らのお金を狙った夜の女たちでギルドのホールはいっぱいだ。
「冒険者ランクはA++です。Sはもう間近ですよ」
と受付のお姉さんは自分のことのように喜んだ。
「そう、あともうひと踏ん張りね。今のところSランクのクエストは?」
「Sランクのクエストは出てないですねぇ……あ、でも気になるのが一件ありますね」
「どんなのかしら?」
「Aランク冒険者のパーティがワンダリングモンスターにおそわれて、壊滅しています。目撃者の証言からあまり見ないタイプのアンデットではないかと推測されるんですが」
神奈はふむとうなった。
「ワンダリングモンスターにそれほど強い個体がいるとは考えにくいわね」
強いモンスターは膨大なマナを魔石に
「しかし、げんにAクラスの冒険者パーティが全滅しています」
「そのパーティの内訳は?」
「A+のリーダーにAが三人、A-が二人の六人パーティです」
それは冒険者たちが選り抜きの中のさらに上澄みクラスの達人であることを意味していた。
ネットゲームでいえば廃人様のパーティだ。
「そう……解ったわ、そのワンダリングモンスターの討伐クエストを受けることにするわ」
そのモンスターはどうやら夜行性のようで、先発の冒険者パーティが昼に事件現場周辺を徹底的に捜索しても見つからなかった。
事件現場が街のすぐ近くだったので、この件はけっこうな騒ぎとなった。
「エリカ、占術を頼むわ。わたしのタロットでも不吉な相は出るけど、具体的なことは見えてこないのよ」
「モンスターが魔術的な結界を張ってるの?」
当摩が訊ねた。
「そういう例も皆無なわけじゃないけど、珍しいわね。当摩、許可を出して」
「うん、エリカちゃんやってみて」
「はい」
エリカはすぅと息を吸うとトランス状態に入る。
さらさらさらっと短文を書いたところで、筆が止まった。
「どれどれ」
皆の視線が紙に集まる。
『今夜、月が頂点に上る時グレイル北の街道でその人に会えるだろう、気をつけろ判断ミスは破滅を招く』
「おっ! いいじゃない、さすがアカシックレコードに繋がってるだけはあるわね。
「はい……でも凄く嫌な予感がしました。不安です」
「この判断ミスとはなんだろうな?」
京史が
「神奈ちゃんがいても倒せないモンスターなんていないよね?」
「一応、魔王以外は倒せる自信あるけど」
「でも凶の相なの? 俺も判断ってなんだ? て思ったけど」
「何か……良くないことが始まるのかもしれません」
しばし皆沈黙した。
「でも、放っておくことは出来ないよね。Aランクの六人パーティが壊滅ってことは、わたしたちくらいしか倒せる冒険者がいないってことだものね」
梨花の言葉に皆頷いた。
「月が頂点に上るってことは後二時間くらいね、街の北ゲートまで移動しましょう」
五人は冒険者ギルドを後にした。当摩はどことなく落ち着かない気分になった。
(何もなければいいけどな)
※
「けっこうワンダリングモンスター狙いっぽい冒険者がいるね」
「命知らずも多いからね。
梨花が呆れっぽい顔でぼやいた。
「たしかにそういう人多いですよね。でも、いざ死ぬときになったら、痛いとか怖いって言って騒ぐんですよね。そういう人いっぱい見てきましたから」
「エリカちゃんも冒険経験長いんだよね?」
「ええ、小学校に上がった頃からです」
雑談に花を咲かせるブラックマジシャンズ一行は街の北口ゲートにいた。
ちらほらとだが、完全武装の冒険者がゲートを出て行っては探索をしていた。ほとんどがB以下の冒険者で、実際にモンスターが噂通りの強さなら狩られる対象にしかならないだろう。
北ゲートからは他の街へつながる街道がずっと伸びていて、並木がその脇に続いていた。
「神奈ちゃん、動かないの?」
「現場が街のすぐ近くだから、この北ゲートに限らず街の周辺に野次馬がそこそこの数いるっぽいの。たぶんどっかのバカが引っかけるわよ」
神奈は大きなゲートの石積みに身体を預け、耳をすましているようだった。
梨花がマメに月の位置をチェックしている。時間はもうすぐだ。
「ぎゃ――――」
甲高い悲鳴があがる。それが合図だった。
「来たわね」
神奈が駆けだす。全員が後に続いた。
「けっこう近いっ! こっち!」
街道を走っていくと、叫び声と怒号が聞こえる。
「おいおい、ホントに街のすぐ近くだよ」
街道から少し外れた、広場になっている場所にそれはいた。
「ぐるるるるっ!」
長い黒髪がぼさぼさに乱れ、顔にも大量の髪の毛がかかっているためその
たしかにアンデットのように見える。
「こいつ……人を殺ったな」
アンデットの手には千切られた冒険者の首がある。
首無し死体とまだ息のある冒険者が二人ほどいた。
「ひっ! ひぃぃぃっ! た、助けて」
神奈が火球を一瞬で作ってアンデットに投げる。神奈にしてはかなり抑え目な攻撃だ。
アンデットは後ろに飛び退って火球を避けた。パッと火球が弾けて一瞬広場が明るくなる。
「はいっ! さっさと逃げる」
神奈の一声で尻餅をついていた二人の冒険者が必死の形相で逃げ出した。
「この感じビンビンくるわね、大物のモンスターよ。倒せばたぶんかなりの魔力になるわ」
「こいつの相手は当摩がやって、他はサポートにまわって」
「うん、やるよ」
当摩が地面を蹴る。修行の成果で当摩のスピードはかなりのものになっていた。
先手必勝、当摩は
ギインッ! と音が鳴る。アンデットは持っていた短剣で当摩の一撃を受けた。
(受けられた! かなりの怪力だ。バーサーカーを思い出すな)
次の瞬間ぞっとした。何かの記憶が異様に悪い気分をまき起こした。
(なんだっ⁈)
理由は解らない。
一瞬の思考の後、アンデットが斬撃を繰り出してくる。
「早いっ!」
懐に入られると、小回りの利く短剣は怖い。当摩は微妙な距離を保ちながら応戦する。
無数の火花が夜の広場に散った。
(うんっ! わかる、見える)
アンデットはでたらめに攻撃しているわけじゃなく、剣術のセオリーに
「でも、ジェシカさんに比べれば全然大したことないよ」
剣を交叉させるごとに当摩は相手を追い込んでいく。その剣は確実に相手にダメージを与えていた。障壁を削り切ったあたりで。
「貰ったっ!」
相手の短剣を叩き落とし、手首を浅く切った。
その時だ。
ぱっと何かが飛び散って、当摩の顔にかかった。温かい。
「血だ……」
途端に当摩の顔が青ざめる。
「こいつ……異世界人か召喚勇者だよ。モンスターじゃない!」
ざわっとブラックマジシャンズの面々がどよめいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます