レイプ魔成敗

「痛てえ、痛てえよ。このクソが、ぶち殺してやる」

 男の左目が黄色く光る。しかし、当摩はそれに全くひるむ様子はない。


「こ、こいつ! なんかやべえ呪い返しか? 魔眼が効かねえとは」

 男は治癒魔法で出血を止め、それから逃げようとした。

「逃がさないわよ」

 今度は神奈の魔眼が光る。

「う、動かねえ、足が」

 ついで現実世界への逃亡を試みるが、それも神奈に阻止される。


 男は魔力のこもった縄で拘束され、地面に転がされた。

「さて、知っていることを洗いざらい吐いてもらうわよ」

「ひっ、違うんだ。俺は仕方なく」

「仕方なく、女の子をレイプして殺していたの?」

「そ、それは……」

 神奈は男の顔をみつける。


「わたしクズには容赦しないって決めてるの」

(か、神奈ちゃん怖っ!)

「ほら、わたしの眼を見てみなさい」

「う、うう……」

「ブラッディ・マリーは今どこで何をしているの?」

 神奈の魔眼が光る。恐らく催眠魔術だ。


「あはっ! あはははははっ! あはははははっ!」

 唐突に笑い声が聞こえる。男のものではない、女の笑い声だ。それは甲高く耳障みみざわりだった。

「ああ……マリー様」

 その笑いを聞いた男の顔は恍惚こうこつとしていた。女の声はするが姿は見えなかった。


「貴方が集めていた苦しみのマナ、とても美味しかったわよ。でも黒の魔女に負けちゃったんじゃ、貴方もここまでね」

「そ、そんな……マリー様」

 次の瞬間、男の左目が燃えあがる。

「うぐっ! うぎゃあああああっ!」

 縄に拘束されたまま、男は苦しみに悶える。


「手間暇かけて作ったまじない具だったけど。そこからわたくしの工房を辿られてしまったら、困っちゃう♡」

「くっ、この外道、許さないわ」

「黒の魔女様……あんまり怒らないで、貴方の血が吸いたくなっちゃうから♡」

「お前と言うやつはっ!」

 珍しく、神奈が激昂した。


「さあて、証拠隠滅も済んだことですし、わたくしはこれで退散させていただきますわ、ごきげんよう。ブラックマジシャンズの方々」

 ブラッディ・マリーの笑い声が消えたあと辺りを静寂せいじゃくが包み込んだ。


 男は完全に気絶している。左目があった場所は焼け焦げて空洞になっていた。

「この男どうするの神奈ちゃん?」

「当然、それなりの罰を受けてもらうわよ」


 ※


「で、その男は死刑囚だったわけね」

 加奈美は眉間にしわを寄せた。犯人がわかったことは喜ばしいが、それで明美達被害者の心が癒えるわけじゃない。


 当摩は今度も一人で加奈美と明美に事件の顛末てんまつを報告していた。保健室奥のカウンセリングルームは前回より幾分かだけ軽い空気だった。


「聖書だっていつわって、独房に魔導ゲームブックを持ち込んでたみたいなんだ」

「そうなの? まあ携帯やパソコンと違って、魔導ゲームブックはただの本だものね。カバーをかけていたら解らないかもね」

 加奈美の言葉に当摩はコクリと頷く。


「でも、当摩君たちは本当に凄いね。あっという間に犯人を見つけて、退治しちゃうんだもん」

 そう言った明美の瞳はどこか恋する乙女な感じがした。

「うん、妹の夏鈴の力があったからブラックマジシャンズだけの手柄じゃないけど、またギルドからの評価も上がったみたいだよ」

 当摩もひと仕事終えて、満足げな様子だった。


「ただ、目を覚ました男は重要な記憶が消えちゃってたみたいで、神奈ちゃんの催眠でも大した情報は掴めなかったんだ」

「あいつもあやつられてただけなの?」

「いやぁ、快楽殺人者であったことは確かみたいで、神奈ちゃんがキッツイ黒魔術でお灸をすえたみたいだよ」

「そうなんだ……」

 明美は少し浮かない顔をした。レイプこそまぬがれたけど、殺された記憶は消えない。


「そのキッツイ黒魔術ってなんだったの?」

「うん、なんでも二度と逸物が勃起ぼっきしなくなって、やがて腐り落ちる呪いだって」

「黒崎さん怖っ! あの人やっぱり魔女ね」

 あー怖っと加奈美は両手で自分を抱き、震えてみせた。

「まあ……神奈ちゃんだからね」


「ところで当摩君にお礼があるの」

 加奈美が悪戯いたずらっぽい笑みを見せて言った。

(んっ……? なんか企んでるっぽい?)

「あっ、お礼だったら俺じゃなくて神奈ちゃんにしてよ」

「それが、神奈ちゃんじゃ受け取れないものなの」

「受け取れないもの?」

 当摩は首をかしげる。


「ほらっ! さっさと言っちゃいなさい、観念かんねんして」

 加奈美が明美をつついて、なにか発言を促しているようだ。

「あの……その……」

 明美の顔が真っ赤になっている。


「私、当摩君の役に立ちたくて……あの……その……当摩君、異世界で魔力を高める修行をしてるって……それで……」

(うう、もしかして)

「わ、私の処女を……こんな、可愛くもない女だけど。一応、処女だし。オナニーホールみたいに使い潰してくれてもいいの」

(わわわわ、やっぱり!)

 次の瞬間、当摩も真っ赤になっていた。


「い、いや、明美ちゃんは本当に可愛くて素敵な女の子だよ。こんなところで処女を捨てるんじゃなくて、ちゃんと好きな人に!」

 あせった当摩は手をブンブン振りながら、早口にしゃべった。

「私……当摩君が好きなの……」

 当摩は石のようにその場に固まってしまった。

「お願いです……当摩君……私の処女を貰ってください」

 明美は深々と頭を下げた。ここまで言われたら当摩も腹をくくるしかなかった。

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