魔王教団の足音
「魔王教団?」
冒険者ギルドの飲食スペースでオカ研部員がテーブルを囲んでいる。軽く軽食をつまみ、コーヒーを楽しんでいる時に、そんな話題が出た。
「そうよ。その名の通り異世界の魔王を信奉している教団よ」
「それ聞いたことあります。悪質な
「そうよ。自分たちも召喚勇者であるにもかかわらず、特にランクの高い冒険者を目の仇にしているの」
異世界グレイルで仮に肉体が破壊されてしまっても、召喚勇者の肉体は魔法で出来た人形なので、魔力は消耗してしまうが復活ができる。
魔物を狩り危険なダンジョンに挑む冒険者の中には、この世界での死を経験したことのある者も少なくない。
しかし、皆口をそろえて言う。できれば二度と死にたくないと、そのくらい死には苦痛が伴う。
「仮にこっちでは死なないって言っても、PKなんて許せないよな」
当摩が鼻息荒く言った。
「でも、その教団って十年以上前に先代の三大魔女によって壊滅させられて追放魔術で異世界からパージされたんじゃ」
「そう、わたしは小さな時だったから作戦に参加はしてないけど、お母様と当時十代だったアリスが作戦に参加していて、その時のことは聞いたことがあるわ」
「また、復活したんですか? 確か当時の教団のボスには逃げられたんだよね」
梨花が大きな瞳をクリクリさせる。
「たしか、ボスは吸血鬼で信徒の連中はその眷属だったそうですね」
京史も眉間にしわを寄せ、不味そうにコーヒーを飲んだ。
「魔王教団との異世界での戦闘は、三大魔女側が勝利して、現実世界でも吸血鬼たちを追い詰めたけど……犠牲者が出て……梨花が言う通りボスには逃げられたのよ」
神奈の顔には悲痛な表情が見て取れる。
「吸血鬼ってモンスターなの?」
「いいえ、人間よ。元が付くけど」
と、言った後、神奈は当摩に目をむける。
「当摩、復習よ魔術と魔法の違いはなに?」
「えっと、魔術が心と霊と運命に作用する術で、魔法は主に異世界で使える、魔術的操作が現実を捻じ曲げて実際にその場に効果を表す術でしょ?」
「正解よ。ちゃんと進歩してるじゃない」
ははっと当摩は少し笑い、鼻の頭を掻いた。
「吸血鬼化も魔法よ。それも現実世界のね」
「どっ、どういうこと」
「簡単よ。例えば当摩、魔術による運命変更で自分の寿命を千年先に決めたらどうなると思う?」
「千年なんて、人間が生きられる時間じゃないよ」
「そうね、その通りよ」
神奈は目をつむって一呼吸置く。
「しかし、何らかの秘蹟を用いて強制的に寿命を千年後にすると、現実が歪むの」
「現実が……歪む」
「そう、そうして吸血鬼になった人間は他者の血を吸って、千年生きる化物になるの」
「そんな奴が実在するんだ」
当摩はゴクリと喉を鳴らす。
「現在確認されている真祖の吸血鬼はブラッディ・マリーと呼ばれる一個体のみ、魔導ゲームブックを人類で初めて作りだした存在だといわれているわ」
「元々この異世界グレイルはブラッディ・マリーが自らを吸血鬼化するために発見した世界、この世界で奴は魔王と契約してその軍勢を率いて王城を襲撃、王国に保管されていた聖遺物である聖杯を盗み出し、当時第二王女だったエリシア姫の処女の血を聖杯で受けてそれを飲み、魔術の限界を超える魔力を手にしたの」
長いセリフに一息入れ神奈はコーヒーを一口飲む。
「それがおおよそ三百年前の話ね」
「魔王と吸血鬼、それに魔王教団についてはわかったよ。それでそいつらが悪質なPK行為を実際にやっているの?」
「それはまだ噂の範囲よ当摩君、ただ最近若い女の子を狙った殺人鬼がいるって話」
「その被害者がいうに犯人が魔王から力を授けてもらったとか
「魔王ってそんな簡単に力を貸してくれるの?」
「ええ、心底魂が腐ってたらね、そんな奴めったにいないけど」
神奈は眉間にしわを寄せ、そう吐き捨てた。
「しかし皆くわしいね」
「あなたが娼館で遊んでいる間に地道に調査していたのよ」
「へ~、当摩君は娼館で遊んでたんだ」
梨花はニヤニヤ笑っている。
「そっ、それは寺島君にそそのかされて」
「それで二人でエルフとエッチできるなんてサイコーだ~って大枚はたいて娼館に乗り込んだのよね」
「うっ……それは」
当摩の額に冷や汗が浮かぶ。
助け船は意外に早く出た。
「僕の個人的な見解だけど、いいかな?」
そう言った京史に皆の視線が集まる。
「まず犯人の目的はたぶん快楽だと思うんだ。以前の教団は強い冒険者を狙って粘着PKをして、魔力を奪いつつ魔王の敵を排除するのが目的だった」
「そうねえ、今回の連続殺人の被害者は皆若い特に処女の女の子だったわね」
「半数くらいの女の子が殺害される前にレイプされてたんだっけ?」
「ますます許せないな」
当摩が
「わざわざ弱い女の子を狙うくらいだから、実力はそれ程でもないのかな~」
「魔眼を使ったという証言もあるんだよ、それが本当なら魔術師の可能性もある」
しばしの間、みんな黙り込む。
「それじゃあ、今回の目的って?」
「ブラックマジシャンズとしては、当然そんな殺人鬼を野放しにすることはできないわ。もうクエストも受けてあるしね」
神奈はキリっとした顔をして、一同の顔を見まわす。
「今回の目的は殺人鬼の特定と背後関係の洗い出し、見つけ次第拘束して全て吐かせたあと、キッツイ黒魔術をお見舞いするわよ」
「「おおっ‼」」
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