妹、夏鈴

「それで……昨夜ゆうべはお楽しみだったようね」

「ご、ごめんなさい」

 その日のオカ研活動の時間になっても神奈は怒っていた。今は部室に二人っきり、梨花や京史に助けを求めることもできない。


「お守りを通してつながっている霊的リンクが切れたから、本当に何事かと思ったわよ」

「し、知らなかったんだよ。まさかアリスさんがエルフの娼館にいるなんて」

「休みをあげると娼館に行くような男だったのね。あなた」

「そ、それは寺島君が……」

 言い訳をしようとすると神奈の目がつりあがる。世界最高レベルの魔眼なので本当に怖い。


「まあ、いいわ。一応魔力も上がってA-になったことだし、魔力を得るために性行為を許したのはわたしだものね」

 と、こんな感じで一応怒りの矛は収めてくれるようだ。


「ところであなた、妹がいるそうね」

「えっ⁉ 夏鈴かりんのこと?」

「そう、すぐに連れてきなさい」

 妹はオカ研にあんまり良いイメージを持っていないようなので、出来れば断りたかったが、今神奈の命令に逆らうと本当にどんな目にわされるかわからなかったので、黙って首を縦に振った。


 ※


「あらっ、ずいぶん可愛らしい妹さんね。本当に当摩と血がつながっているの?」


 夏鈴はどこか座敷童を思わせる。色白の肌と梨花よりも少し長いようなおかっぱの黒髪をしていて、兄のひいき目があるのかもしれないが、人並み以上の美人さんだと思う。


「むっ、いきなりなんですか? どうして夏鈴を呼びだしたりしたんです?」

「失礼したわね。わたしは黒崎神奈、このオカルト研究部の部長をしているわ」

「黒の魔女のご高名はうかがっています。兄がいつもお世話になっています。妹の夏鈴です」

「まあ、本当に可愛らしい。当摩と違ってしっかり者なのね」

 と、いつになく神奈は上機嫌だ。


「それで……夏鈴を連れてきたはいいけど、神奈ちゃん何か用事なの?」

「そうね。まずは夏鈴ちゃん、お兄さんが魔術的な特異体質なことは知っているかしら?」

「一応……あんまり要領を得ない兄の説明でしたけど……なんでも魔法が効かないとか」

「そう、もしかしたら血のつながっている夏鈴ちゃんも何か特異体質なのかと思ったのだけど……」

「どっ……どうなんだろう?」

 ふむ、と一息ついて神奈は魔眼で夏鈴をながめる。


「夏鈴ちゃん、まっすぐ私の目を見て」

 言われて夏鈴は少し戸惑ったが、意を決したようでまっすぐ神奈に向き合う。神奈の目が少し光った。

「うん、当摩のような特異体質ではないわね」

 次に神奈はタロットカードを懐から取り出すと、机の上に広げて混ぜてから、綺麗きれいに並べた。

「ふんふん、なるほどね。ちゃんと運命があるようね、あなたは大丈夫、幸せな人生を歩むわ」


「はぁ……ありがとうござます」

「しかし、やっぱり夏鈴ちゃんにも魔術の才能があるわ」

「まっ、マジか?」

 神奈は立ち上がると、オカ研の備品が置いてある棚から、小さなふたつの箱と、銀でできた振り子を持ってきた。


「このふたつの箱、ひとつは宝石が入っていて、もうひとつは空よ。この振り子を持って箱にかざしてごらんなさい」

「は……はぁ」

 まずは右の箱に振り子をかざしてみる。すると振り子は動かない。もう一方にかざすと振り子が振れた。


「はい、正解」

 神奈は箱を開けてみせる。確かに振り子が振れたほうに宝石が入っていた。

「これって、何かの仕掛けですか?」

「種も仕掛けもないただの箱と振り子と宝石よ」


 その後、夏鈴に見えないように宝石を箱に入れ、何度か試す。そして夏鈴のダウジングは百発百中で宝石のある箱を見抜いた。

「すっ、すごい! これが夏鈴の?」

「そう、ダウジングの才能ね。色々と使い道があるわよ」

「本当に不思議です……夏鈴にこんなことができるなんて」

 どこかぽーとしたように夏鈴がつぶやいた。


 魔術の才能がわかっても、神奈は無理に夏鈴をオカ研に誘ったりはしなかった。夏鈴が友人とのつながりで入っているテニス部をやめさせることにも気が咎めるようだった。


「あなたはオカ研メンバーではないけど、魔術の才能がある女の子は色んな人間に目を付けられやすいから、これをもっていなさい」

 そういって神奈は当摩にあげたのと同じお守りを夏鈴に渡した。

「あ……ありがとうございます。神奈さんってもっと厳しい人かと思っていました。優しい人で夏鈴は安心した。今後とも兄をよろしくお願いします」

 ペコリと夏鈴が頭を下げる。神奈は少し嬉しそうに微笑ほほえんだ。


「その振り子はあなたに使われるため、ここに来たようね。それも持って行っていいわ」

「えっ! でもこんな高価そうなもの、悪いです」

「わたしにとってお金なんて何の価値もないものよ。その気になれば宝くじの一等を当てればいいし、今も必要なお金は不自然にならない範囲で株の運用でまかなっているわ」

「へぇ……やっぱり神奈ちゃんはすごいな」

 神奈は少しドヤ顔を見せる。


「私の占いに億単位のお金を支払ってもいいというお金持ちはいっぱいいるしね。もっともお金を貰うより、かしを作っておいたほうが得な場合も多いから、滅多にお金を貰うことはないけどね」

「本当に……魔女なんですね。夏鈴は感心してしまいました」


「そう、そしてそんな素敵なスポンサーのおじさまから、超高級シュークリームをいただいたわ。夏鈴ちゃんも食べていくといいわ」

 そうやって始まったお茶会はとても楽しかった。あまりのシュークリームの美味さに度肝を抜かれた浜屋兄妹を見て神奈も嬉しそうだった。


 その後、夏鈴はある事件で思わぬ活躍をすることになる。

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