第4話 「早稲田と慶応」に助けられた私の人生
人間、一生の間には何度か死にかけた経験があるものです。
1回目は、中学2年生の時、父親の転勤で滞在した小笠原で、崖から落ちそうになった時。
2回目は、中学3年生の期末テスト(英語)の時。
3回目は、高校3年生の、やはり期末テスト(数学)の時でした。
2・3回目は落第の危機という意味で、生死のかかった事態でした。
中学3年生の時、私の隣の席は、幼稚園 が慶応でしたが、父親の転勤で一時東京を離れていたため、中学校は私のいる、ある市立中学に来ていた男子でした。
彼は、中学3年生の時の期末テスト(英語)ができず、どうにでもなれと寝ていた私を揺り起こし、自分の答案用紙を見せてくれました。
彼の面白いところは、私が写した答えを、身を乗り出して見てチェックしてくれたことです。何カ所か写し間違いがあったのですが、彼が直接鉛筆で書き直してくれた箇所もありました。 一番後ろの席でしたので、可能だったのでしょう。
彼は、特に英語は素晴らしくよくできたので、試験時間の半分で全て答を書き終えていたので、こんなことができたのです。おかげで、20点くらいは得をしました。
授業中、先生が教科書にある単語の同義語を黒板に数個書くと、皆、それをノートするのですが、彼はそれらをほとんど知っている。たまに知らない単語があると三省堂の「コンサイス英和辞典」を引くのですが、それが恐ろしく早い。3秒くらいで発見してしまう(私の場合、10~15秒かかる)。
2023年夏、「エンジョイ・ベースボール」という言葉が流行りましたが、今にして思うに、この中学校時代の同級生も、自分の好きなことを徹底的に・自分スタイルで楽しむことができた人間でした。
彼は映画鑑賞が趣味で、「ロードショー」と「スクリーン」という2冊の映画(洋画)雑誌を毎月購入し、毎週、新宿や渋谷にロードショーを見に行っていました。そして、月曜日になると、週末に鑑賞した映画(洋画)の話を私にします。映画雑誌の評論家の評価と彼の評価がいかに違うかを、その雑誌の記事を見せながら解説してくれるのです。
(慶應義塾高等学校野球部の甲子園優勝で話題になっている「エンジョイ・ベースボール」に見るように、「KO派・KOタイプの人間」というのは、自分が好きなことにのめり込めるほどの知力と財力があるから、とことん没入(没頭)できる(のではないかと私は思います)。
私の場合、同じように洋画が好きといっても、日曜・土曜洋画劇場といった、テレビの映画鑑賞が主で、わざわざ新宿や渋谷、銀座のロードショー館まで毎週、(一人で)観に行くことはないし、映画専門誌を毎月2冊も購入することもない。彼と同じく「趣味は映画鑑賞」と言えるくらい、映画が好きですが、あくまで「映画大好き」というだけ。我が家は「書籍の購入」については制限がなかったので、雑誌は2冊でも3冊でも買えたでしょう。ロードショーを見に行くお金も、親に交渉すれば何とかなったかもしれない(外食はできない?)。
しかし、あそこまで本格的に・自分なりの映画評論をするという「のめり込み方」はできません。
ところが彼の場合、徹底的にのめり込む、という楽しみ方をする。これこそが「エンジョイ・ベースボール」と言えるのではないでしょうか。
2冊の映画雑誌の評価と、自分が実際にその映画を観ての感想(評価)、この三者を比較し、一体この映画の真価はどこにあるのかを追求する。そういう「映画鑑賞の楽しみ方」の追求の仕方。そして、それを私のような他人に熱烈に話す。
彼は毎期末、通信簿を私に見せてくれましたが、オール4と5(体育だけ3)。
塾へも行っていないし、毎週土曜日(の午後)と日曜日は映画鑑賞で、この成績です。
かといって、もっと勉強して東大へ行こうとかいう意欲はない。むしろ、空いた時間は自分の趣味に時間を使おうとする。しかも、本格的にのめり込む。そして、それが許される(経済的に豊かな)家庭環境にある。
これが一つの「KOタイプ」というものではないか、というのが私の解釈です。
(これは、高校時代の同級生も同じでした。東大や慶応へ行ける学力があり、家もかなり裕福だったのですが「ガラじゃない」と言って、彼の場合は早稲田へ行きました。)
たまたま、私のある友人の思い出と、今夏の慶應義塾高等学校野球部の甲子園優勝にインスパイアされ、今まで気がつかなかった、こんな考えに至りました。
その意味で、「慶應義塾高等学校野球部の甲子園優勝・エンジョイ・ベースボール」という出来事は、ジジイとなり、もはや新しい思い出など作ることのできない私に新しい(過去の)思い出を一つ、作り出してくれたといえるのです。
続く
2023年9月23日
V.3.1
平栗雅人
早稲田と慶応 V.3.1 @MasatoHiraguri
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