第4話
あの後タウンハウスに帰り今はエリザの部屋でお茶を飲みながら話をしている。
お茶とお菓子おいしい。
「じゃあ今日のあれは全部エリザの計画したことだったの?」
「正確にはお兄様と叔父様も一緒よ。魔力感知はほぼ全員が入学前に習得しているはずだから改めて教えることはないのよ。でもそれだとオルガが困ると思って復習を理由にして授業をしてもらったの」
なんでも私以外の生徒は全員貴族なのもあり、入学前には男爵家のような下級貴族でも家庭教師を招いて魔力感知を学んでいるそうだ。
そんなことなど当然知らないので最初から遅れをとっている私をフォローしてくれたようだ。
「そうだったんだね。できるか不安だったけど無事に魔力感知できてよかったー!」
「オルガは才能があるわ」
「えへへ、お世辞でも嬉しいな!ありがとう」
「…一度でできるほど簡単なことなら家庭教師なんていらないってことには気づいてないのね」
「エリザどうしたの?」
「ふふっ、なんでもないわ」
「そう?あ、じゃあ魔力の色や後見人の話も私のためだったりする?」
「そうよ。入学した時点でオルガが聖魔力の持ち主だということはバーヤイマ家と王家しか知らない情報だったのだけれど、学園に入学したのなら隠すことは難しくなるわ。それなら最初からオルガが百年ぶりの聖魔力の持ち主で、後ろにはバーヤイマ公爵家が付いていると宣言した方がオルガが安全だと判断したのよ」
「あー…、私が平民だから嫌がらせされるかもしれなかったってことだよね?」
「同じ貴族の中にそんな低俗なことをする人がいないと思いたいけど、こればっかりはどうなるか分からないから確実な策を取ったの」
確かにバーヤイマ公爵家が後ろにいると分かっていれば私に何かしてくる人はほぼいないだろう。
ただ絶対ではない"ほぼ"なのだ。
バーヤイマ公爵家よりも上位の者からは気をつけなければならないだろう。
「色々考えてくれてありがとう。私も自分でできる範囲では気をつけたいとは思うんだけど、あの王太子殿下のこと聞いてもいい?」
「…ええ、いいわよ」
王太子の話になった途端、エリザの美しい顔が歪んだ。
それでも表情が歪んだのは一瞬だけですぐに戻ってはいたが公爵令嬢であるエリザにこんな表情をさせる王太子は相当ヤバイ人物の可能性が高い。
「えっと、王太子殿下ってどんな人なの?」
「王太子殿下は…」
エリザの話によると王太子は王妃の子どもではなく側妃の子どもなんだそうだ。
国王と王妃は政略結婚だったが仲は悪く、さらに王妃が王家に輿入れする時点で国王の恋人であった男爵令嬢が国王の子を身籠っていたのだ。
その後男爵令嬢ら側妃になり王太子が生まれたのだ。
そして両親に甘やかされて育てられた結果があれなのだそうだ。
「あんな人と結婚なんて絶対に嫌!…あ、ご、ごめん!エリザの婚約者なのに嫌とか言っちゃって…」
「…ふふふっ」
「エ、エリザ?」
「…私もね、あんな人と結婚するなんて絶対に嫌だったの。でもそんなこと言えないじゃない?あんな人でも一応王太子なんですもの。でもオルガがあまりにもハッキリ言うものだから可笑しくて私も言いたくなっちゃったの。ふふっ」
「エリザ…。でもそれなら私が王太子と婚約した方がいいのかな…?」
「それは違うわ!間違ってもそんなことは考えないで。オルガを差し出して自分だけ助かればいいだなんて思ってないわ」
「で、でも…」
「オルガがこの婚約を喜んで受け入れていたのなら私も喜んで身を引いたわ。でもそうじゃないでしょ?それなら二人とも助かる道を探してみるのもいいんじゃないかしら?」
二人とも王太子と結婚しないで済む未来があるのならそれが一番いいに決まっている。
私が望む未来は平穏な暮らしなのだから。
「…私はね贅沢できなくてもいいから平穏な暮らしがしたいんだ。エリザはどんな未来を望んでいるの?」
「…私は本当に愛する人と幸せになりたいわ。こんなこと婚約者のいる身で言っていいことではないのは分かっている。でもこれが私の本心なの。オルガはこんな私を軽蔑する?」
「軽蔑なんてするはずないよ!好きな人と結ばれたいって思うことの何が悪いの?…確かに今の状況じゃ声を大きくして言えることじゃないかもしれないけど私はエリザを応援したい!」
「っ!オルガ…」
「そもそもどうしてエリザと王太子が婚約することになったの?お互いに好きじゃなさそうだったし、やっぱり政略ってやつなの?」
王太子が男爵家出身である側妃の子であるから後ろ楯が弱い。
だからバーヤイマ公爵家の力が欲しいのだろう。
そちらはなんとなくそんな理由なんじゃないかと思うのだが、バーヤイマ公爵家側はわざわざ問題がありそうな王太子と婚約するメリットが無いように思えた。
「それは…」
エリザはなんだか躊躇っているようだったので私は慌てて言葉を口にした。
「あっ!言えないことだったなら気にしないで!ちょっと気になっただけだからさ!」
「…いいえ。オルガに聞いてもらいたいわ。でもこれは私だけでは判断できないことなの。だから少し時間をもらえないかしら?」
「う、うん。分かった…」
真剣な表情で話すエリザの顔にはどことなく暗さを感じた。
この婚約には相当な理由があるのかもしれない。
そんな話を私が聞いていいのかとも思ったが、エリザがあまりにも真剣だったので私は受け入れることしかできなかった。
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