第3話

 ――カルディナ学園


 カルディナ王国唯一の王立学園であり、十歳の時に受ける魔力検査で魔力有りと判断された者だけが入学することを許されている。通えるのは二年間で一般教養の他に魔力の扱い方を学ぶことになる。貴族にとってカルディナ学園卒業というのは必要なステータスだ。


 ここを卒業できなければ一人前とは認められない。




 魔力は遺伝することが分かっており貴族が魔力を独占している状況だそうだ。


 たまに平民で魔力持ちが現れることもあるが、その場合両親のどちらかが貴族であることがほとんどだがそれも滅多にない。


 正式に貴族として認められない子でも魔力持ちというだけで価値があるのだ。


 だから私のように純粋な平民の血を引く子が魔力持ちとして生まれることは限りなくゼロに近いが今まで全くいなかったわけではない。


 それが百年前に存在したと言われている聖魔力の持ち主だ。


 記録によると彼女は平民だったようで幼い頃に聖魔力に目覚め、そしてその力を彼女は惜しむことなく使い続け、国民からは聖女と呼ばれていたとルシウスさんから教えてもらった。


 聖魔力の発現者が平民であったのでもしかしたらまた平民の中から現れるかもしれないと考えた当時の国王が、全国民に魔力検査を受けることを義務化したのだ。



(なるほど。魔力持ちはほぼ貴族しかいないって話を聞いてどうして平民も魔力検査を受けなくちゃいけないんだろうって思ってたけど、聖魔力を見逃さないためだったなんてね)



 それなら私が聖魔力に目覚めたのは平民だからなのか、それとも前世の記憶を思い出したからなのか。


 もしも後者だったのなら聖女も前世の記憶を持っていた可能性が出てくる。


 けれど今さらそれを証明することは難しいだろう。


 これ以上考えても仕方がないので今は考えるのをやめて入学式に意識を戻す。そう、今は入学式の真っ只中なのだがあまりにも話が長くて違うことに意識がいってしまっていた。


 ちらりと私の隣に座るエリザを見ると真剣に話を聞いていた。


 私は気合いを入れ直し改めて入学式に臨んだのだった。




 入学式が終わるとクラスが発表され、今は自分のクラスに移動している途中だ。


 クラスはA、B、Cの三クラスあり私はCクラスだ。


 エリザも同じCクラスだったことは本当によかった。



「エリザと同じクラスでよかったぁ!違うクラスだったらどうしようかと思ったよ!」


「ふふっ、私はオルガと同じクラスになることは分かっていたの」


「ええっ!?そうなの?」


「……っ!」


「実は学園に知り合いがいるのよ。その人にお願いしておいたの」


「…いっ!」


「?(何か聞こえたような?)そうだったんだ。その知り合いって誰…「おいっ!」へっ!?」



 突然後ろから大きな声が聞こえてきたので驚いて変な声が出てしまった。


 一体誰なのかと思い後ろを振り返るとそこにはイケメンがいた。



「え、えーっと、誰?」


「なっ!?お、お前、俺のことを知らないのか!?」



(イケメンだけど感じ悪いな。てか本当に誰?無駄にキラキラしてるけど…)



「エリザ…」


「王太子殿下にご挨拶申し上げます」


「エリザベート!これはどういうことだ?どうしてこいつは俺を知らないんだ!」


「申し訳ございません。彼女は王都から離れた場所に住んでいたため王太子殿下のご尊顔を知らなかったようです。今後はこのようなことがないようにいたします」


「この俺を知らない国民が存在するなんて嘆かわしい。ふん!今回だけは見逃してやるが次からは気をつけるんだな!」


「ありがとうございます」


「それでお前が聖魔力の持ち主か。まぁ見た目は悪くないな。お前を俺の妃にしてやるんだから感謝するんだな。行くぞ、リュシアン!」



 そう言って王太子はリュシアンと思われる男子生徒と一緒に去っていった。


 一瞬だけリュシアンがこちらの方を見た気がしたがどうしたのだろうか。



(それにしてもあれが王太子とか、この国ヤバイんじゃない?というか…)



「…あれがエリザの婚約者で、もしかしたら私の婚約者になるかもしれない人?あ、あり得ない…」


「オルガ」


「っ!」


「色々言いたいことがあるのは分かるけど、今は周りの目が多すぎるからこの話は家に帰ってからにしましょう。ね?」


「わ、分かった…」


「じゃあ急いで教室に行きましょう」



 教室に着くと席が指定されていたので指定された席に着く。


 私は窓側の一番後ろの席だ。もちろんエリザはその隣の席だった。



(これも知り合いの人のおかげなのかな?)



 間もなくして教室に一人の男性がやってきたがどうやらこのクラスの担任のようだ。



「みんな揃っているか?」



 ブロンドに紫の瞳のすごいイケメンだがなんだが見たことがあるような気がする。


 しかし私には王都に知り合いなどいないので気のせいかなと思っているとエリザが小声で教えてくれた。



「…あの人が知り合いよ。私の叔父様なの」


「…どおりで見たことがあると思った。ルシウスさんに似てるね」


「…お兄様に似ているというよりお父様と叔父様が似ているの」


「…そうだったんだ」


「みなさん入学おめでとう。私がこのCクラスの担任のイサーク・アルマティだ。魔力操作の授業も担当するぞ。二年間よろしくな」



 あとでエリザに聞いた話によるとバーマイヤ公爵様とイサーク先生は双子だそうだ。


 イサーク先生が兄でバーマイヤ公爵様が弟なのだが、先生は爵位を継ぐ気が全く無く弟の公爵様が後を継いだ。


 そして先生は恋仲であったアマルティ子爵令嬢と結婚して婿入りしたそうだ。


 これだけ聞くと兄弟仲はあまりよくないのかと思うけれど、二人は今でも仲がいいらしい。


 エリザが言うのだから間違いないのだろう。



「じゃあ早速だが授業を始めようか。まぁ今日は初日だし復習を兼ねて魔力感知をしてみようか。さぁまずは目を閉じて呼吸を整えて」



(え、待って。魔力感知って何?ていうか復習?いやいや、みんな今日入学したばっかりでしょ?それなのにみんな何の反応も無いけどできて当然のことなの!?どうしよう…。と、とりあえず先生の言う通りにやるしかない!)



 ルディを助けた時も記憶を思い出したこと以外の変化は全く感じられなかったのに、魔力感知などできるのか心配になったが今は先生の言う通りにやってみるしかない。



(目を閉じて、呼吸を整える…)



「そして自分の身体の内側を意識するんだ。そうしたら心臓から身体中を巡る力が分かるはずだ」



(そして身体の内側を意識して、っ!うわっ!心臓からものすごい早さで何かが巡ってる!…これが魔力なの?)



「よーし、魔力感知できたか?そうしたら手から魔力を出してみろ。さっき感じた流れを手に流れるように意識してみろ」



 先生の指示通りにさっき感じた魔力の流れを手のひらに流れるように意識してみる。



(手に流れるように、と…。あ、なんだか手が温かくなってきた)



「手が温かくなってきたら手から魔力を出してみろ。こんな風にな」



 そう言った先生の手には淡く青い光を放つ球体が浮かんでいた。


 私も同じような光が出るように強く念じた。すると私の手にも光を放つ球体が現れたのだ。


 ただ光の色が先生と違うので辺りを見回してみると青の他に赤、緑、黄色の合わせて四色を確認することができた。


 エリザは先生と同じ青い光だったのだが、色の違いに疑問を抱いていると先生が説明してくれた。



「よし、全員できたな。それじゃあこれも復習だ。魔力には四つの種類がある。火、水、風、土だ。これが魔力の色に関係してくるんだが火魔力は赤、水魔力は青、風魔力は緑で土魔力は黄色になる」



 魔力の色が違うのは宿している魔力の違いだそうだ。



(…あれ、じゃあ私の魔力の色は?)



「ただ例外が一つだけある。赤でも青でも緑でも黄色でもない色。それは聖魔力の"白"だ」



 先生はそう言って私を見たようでそれにつられて生徒達も私を見て驚いていたようなのだが、私は手の魔力に集中していて気づかなかった。



「これらの魔力を使って事象を起こすことを魔法と呼んでいる。…それじゃあ今日の授業はここまでにするから魔力を消すように。集中が切れれば自然と消えるぞ、ってもうほとんど消えてるか。…まぁそうなるよな」



(…よし、消えた!どうなるかと思ったけどよかったよかった…って、なんでみんな私を見てるの!?)



 魔力を消して手から意識をはずすとなぜかクラスのみんなが私を見ており、前世の影響なのかたくさんの人に注目されることが苦手なようで身体が強張った。



「ほら説明するから全員前を向けー」



 私に向けられていた視線が先生の一言で無くなり身体の強張りが治まってホッとした。



「実際に見て分かったと思うがミストリアは聖魔力を持っている。聖魔力の発現はこの国にとって百年ぶりのことだ。ただミストリアは市井の出身だから分からないことがたくさんあるだろう。だからバーヤイマ家が後見人になっている。基本はバーヤイマが付いているが、もしミストリアが困っている時があれば助けてやってくれ。じゃあ今日はここまでだ。気をつけて帰るように」



 私の学園生活一日目はなんとか無事に終わったのだった。

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