Tale.2『勇者パーティ』

 セラトネル大陸の西方、魔族領にて——。


「はぁぁぁぁ!!」


 アランの鋭い一撃によって斬り裂かれたオークが倒れる。一流の鍛冶屋に作らせた新しい剣の切れ味は上々だった。


「ちっ、やはりレベルは上がらないか……」


 冒険を再開したは良いものの、魔王によってかけられた忌まわしき呪いは健在。

 今までは嬉々として行なっていた雑魚モンスター狩りも、アランにとっては武器や防具の性能を確かめるためのものでしかない。


「ルチアは何をやっていやがる……まだあいつに抱かれていないのか……!? あの役立たずめ!!」


 頼みの綱は寝取られによるレベルアップのみだが、そちらの方も一向に成果が見られなかった。アランのレベルは未だ、魔王に敗北したあの時と変わらない。


「レベルアップだ。やりぃ〜」

「……あ、ワタシも」

「ほんと!? いえーい!」

「……いぇい」


 戦闘が終わって和気藹々としているパーティメンバーたちを、アランは忌々しげに見つめる。


 今はまだ、アランのレベルがパーティで一番高い。しかし現状が続けばいずれは……。


「……クソが」

 

 苛立ちは募るばかりだった。

 

「ねぇ勇者」


 次の獲物を探して歩き始めた勇者一行。


 先頭を歩くアランにエルフの魔法戦士エステルが問いかける。


「勇者ったら。ねぇほんとに良かったの?」

「……なんの話だ」 

「ルチアのことに決まってるでしょ?」

「問題ない。回復魔法なら俺だって使えるし、間に合っているだろう」

「……ほんとにそうかしら」

「あん?」

「っていうかそう言うことじゃなくて、私が言いたいのは、あの子の気持ち——」

「魔王を倒す。その為には必要な犠牲だった」

「それは、そうかもしれないけど……でも……!」


 反発するエステルだったが、空気も読まずにアランはそのカーキ色の髪をさらりと撫でた。


「ふっ、綺麗な髪だな」

「〜〜、は、はぁ!? 何よいきなり! き、気安く触らないで!」


 エステルはカァっと頬を染めてその手を振り払う。


 その様子を見てアランは心の中でニヤリと笑んだ。


「そんなこと言って、嬉しいんだろう?」

「ひゃぁ……!? ちょ、ちょっと、変なところ触らないで……!」


 続いて尻に手を回されて、自然と上擦った声が漏れてしまう。身をよじって抵抗しているようだが、傍から見ればとても本気で逃れようとしているようには見えず、受け入れてしまっている。


「ん、んんっ……♡ さいてー、ほんとさいてー……♡」


 その時、木々の暗闇から小柄な褐色の少女が姿を現した。


「ご主人。北西に魔物の群れを確認した」


 パーティの1人、アサシンのクロである。獣人の少女で肌は褐色、フードに隠された頭にはネコのような耳がある。

 周辺の偵察はもっぱら彼女の役割であり、このパーティには欠かせない生命線となっていた。


「了解。すまんなエステル。続きは夜だ」

「は、はぁ!? なな何の話かしら!?」


 ハッと正気に戻ったエステルは叫びながら誤魔化すようにアランから離れた。


「群れとは腕が鳴るぜ」


 パーティの殿を務めていた大柄な男、重戦士のダグラスは背中の大剣に手をかけ、気合十分で唸る。今にも魔物の元へと駆け出しそうな勢いだ。


「……待った。行く必要はない」


 しかし小さな声でクロがダグラスを静止する。


「なぜだ? クロ」


「……北西で群れを確認した。でも、雑魚の集まりで経験値は期待できない。ので、ワタシがすでに無力化した。と、報告するつもりだった。ごめん、ご主人」


「なるほど。相変わらず恐ろしいほどに優秀だな」


 口数が少ないためしっかりと話を聞き出す必要はあるが、その能力の高さに疑いの余地はない。

 もっとも、そんなクロでさえ魔王のチカラの前では何の役にも立たなかったのだが。


「偉いぞ」


 クロの使い勝手の良さをアランは気に入っていた。フードを脱がし、小さな頭をくしゃりと撫でてやる。

 クロはこそばゆそうに瞳を細めた。


「なによ、クロばっかり甘やかしちゃって……」

「ん? なんか言ったかエステル」

「このロリコン死ね!って言ったの!」

「……はぁ? 嫉妬か?」

「〜〜〜〜っ、違うわよ! ばかぁ!」


 ルチアが抜けて、メンバーは4人。

 これが現在の勇者パーティ——人類の希望である。


「だっはっはっ! 愉快な奴らだぜ!」


 こうして彼らの冒険はリスタートし、夕方まで魔族領の探索を続けたのだった。



 ◇◆◇



「よっ、調子はどうだい。アラン」


 夜は情報収集に酒場を訪れる。

 声をかけてきた痩せ型の男、ロイは駆け出しの頃から世話になっている情報屋だった。


 パーティ以外では唯一、呪いのことを知っている人物でもある。


「最悪以外にないな」

「ははっ。まぁそうだわな」

「そんなことより、魔王の居場所は掴んだのか?」

「いやねぇ、こっちもさっぱりだわ。前回遭遇できたのは相当運が良かったのかもな」


 ロイはお手上げとばかりに匙を投げた。


 実際、リリスは定住を好まず神出鬼没なため、居場所の特定は困難を極めるだろう。

 リリスに会うためには偶然に頼るか、もしくは彼女自ら出向いてもらうかの2択しかない。


「ところでアランよぉ、本当に良かったのかい? 聖女様のこと」

「はぁ? おまえもか、ロイ」


 昼間のエステルと同じ質問を繰り返されてしまい、アランは苛立ち混じりに頭を掻く。


「……純愛ごっこも、飽きてきたところだったからな」

「純愛ごっこ?」

「ああ。ったくあの女、聖なる加護だかなんだか知らねぇが、ぶさけやがって」


 聖女であるルチアの身体は加護を受けている。

 加護の効果は、合意のない性行為の拒否。

 ルチアが自ら求めない限り、その純潔が散らされることはない。


「顔と身体だけは良いから時間をかけて口説き落としてやったってのに、今度は魔王を倒してからにしましょう、だぁ? あの瞬間、キレなかった俺を褒めて欲しいね、マジで」


 旧知であり本性を隠す必要もないロイに対してはどうしても口が軽くなってしまう。アランは溜め込んだストレスを吐き出すかのようにスラスラと話した。

 

「そりゃあ災難だったな。だが寝取らせちまったら今までの努力がパァじゃねぇか? 処女でもなくなっちまうし」


「おあいにくさま。俺はロイのオッサンみたく処女信仰の趣味はないんでね」


「ええー、そうかい? 処女はいいぜー? 初々しいし、何より汚されていない」


「面倒なだけだろ」


「若いね〜。若い若い」


 ロイは笑って酒を煽る。


「それに、寝取り役はあの愚図のヒスイだ」

「誰だいそりゃ」

「故郷にいる、バカでアホでマヌケなどうしようもない奴さ。ははっ」


 途端に楽しくなってきたアランは嘲るような笑みを見せ始めた。


「気弱で軟弱で、その上勉強も運動もからっきし。同年代にあいつがいたおかげで、俺は随分と甘い汁を吸わせて貰ったもんだよ。何をやっても俺の方が100倍優秀、村の連中からの俺の評価も信頼も鰻登りだ。勇者に選ばれたのだって、もしかしたらアイツのおかげかもな!w」


 リリスが何を考えているのか知らないが、寝取り役にヒスイを選んでくれたことだけは本当にありがたい。

 

「あいつには感謝しているんだ。だからまぁ、少しくらい俺の女を貸してやるのも悪くない。もっとも、魔王を倒したらすぐに返してもらうけどな! あいつはどうせチ○コもちっちぇだろうし、寝取り返すのも余裕だろ!w あははははは!wwww」


 せいぜい今のうちに楽しんでおけばいい、とアランは酒場に響き渡るほど大声で笑うのだった。


 その後もアランはヒスイの悪口や自らの武勇伝を語りながら酒を飲んだ。リリスに敗北してからの1ヶ月間で最も酒が進む夜だった。


 ——数時間後。


「あぁ? なんの用だぁ?」


 宿屋へ戻ると、装備を解いて部屋着になったエステルがアランの部屋へ押しかけてきた。


 肌色が多く、見ているだけでそそられる。


「………………〜〜っ」


 自ら来たにも関わらず、白くしなやかな足をモジモジさせながら顔を赤らめ、一向に言葉を発さないエステル。やがて意を決したようにごくりと唾を飲んで、アランの首へ両手を回して——


「——んっ」


 柔らかな唇を押し付けた。


「そんなにしたかったのか?」

「……うっさいバカ勇者」


 ぷいっと顔を背ける。


「じゃあ帰るか?」

「……あ、あんたが誘ったんでしょ?」

「仕方ないな」


 この後に及んで素直じゃないながらも再びキスを仕掛けてくるエステルを受け入れて、部屋のベッドへと導く。


 酒も回っていて、気分が良かった。


「あ、んっ♡」


 容赦なくエステルの身体をねぶり、愛撫する。

 白くきめ細やかな肌は極上の心地で、何度目であろうとも飽きることはない。


「それじゃ、○れるぞ」

「うんっ……」


 2人の気持ちは昂り、いよいよ本番行為へと移っていくと思われた——が、しかしそこで時が止まったかのように、アランは停止してしまう。


「……どうかしたの?」

「あ、いや、その…………」


 思い出したのだ。そして同時に、理解させられた。


『呪いにはおまけの効果もあるけど、それはまだ話さないでおくね♡』


 呪いには、悍ましいおまけが付与されていた。


「すまん、少し気分が悪い。今日は帰れ」


「ええっ? 何よそれ。ぶさけてるの?」


「いいからさっさとしろ」


「うっ……わかったわよ。……なによ、むかつく」


 有無を言わさぬアランの気迫に押し負けて、エステルは大人しく自分の部屋へ戻ることを選んだ。


 脱ぎ捨てた部屋着を、何とも言えない屈辱やら羞恥を感じながらも着直してゆく。


 アランからすれば、その姿も非常に扇状的で艶やかなものに見えた。


 心は完全に臨戦体制、やる気満々——だと言うのに……


「くそッ」


 身体は、股間はピクリとも反応を示さなかった。


「くそ。くそくそくそくそくそくそくそくそくそぉ!! あの女、魔王め!」


 エステルの去った部屋でアランはひとり、股間のイチ○ツを擦りあげる。


 驚いたことに、それはエステルの時とは見違えるほど大きく膨張していた。


「ぜったい殺す。殺す殺す殺す殺す殺すッ。……いや、ぶち犯してやる! はぁ、はぁ、くそ、エロい格好しやがって! サキュバスのくせに、誰にでも股を開く淫売のくせに、俺を見下しやがって!!」


 リリスに対する劣情を募らせれば募らせるだけ、心と身体はリンクして、興奮を促す。


 そう、これが呪いのおまけ。


 勇者アランは魔王リリス以外で勃たない。


 敗北してから1ヶ月、アランはずっとこうして自慰に耽る日々を送っている。


 それは女の味を知って以来、初めてのこと。


「魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王魔王————あぁッ。……ふぅ」


 その姿は、無様としか言いようがないものだった。




———————



勇者の性格上、寝取られ感は薄めでお送りします。どちらかというと純愛寝取りスローライフを楽しむ作品になるかと。

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