『黄昏時』『お酒』『祭り』

「ちょっと腰を下ろさない?」

 そう幼馴染の彼女は言った。生まれた時から家が隣で、親同士も大学からの友人である俺と彼女は産まれた時からの幼なじみだ。家族間でもイベントやお祭り事を一緒にやっており毎年夏にあるこの祭りもその一つで、昼から飲んだくれている親達からこっそり逃げて二人で回るのが恒例となっていた。

「私もう、ヘトヘト〜」

 今年一番の暑さの中、お昼頃から空が赤くなり始めるまで歩いてたらどんな人でも疲れるだろう。それに浴衣に合わせて下駄も履いているので足も限界になってきているはずだ。その言葉を待ってた俺は、

「じゃあ早いけど、いつものとこに行くか」

 と返し、俺たちは神社の裏手の方にあるベンチへと向かった。ここは人通りが少なく、木陰もあり、しかも花火も見えるという二人の秘密の場所だ。ここでなら計画を実行出来る。

「暑い日にはやっぱりお酒が染みるわねぇ」

 そんな事を言いながら、彼女は屋台の電球ソーダにコンビニで買ったハイボールを混ぜた派手派手でキャピキャピで毒々しいお酒を飲んでいた。

「おいおい。それ何杯目だよ」

「ふふ、教えなーい」

 そんなくだらないおしゃべりをしながら時間を潰していた。二人でこっそり花火を見ていた子供たちは、高校を卒業しお酒を飲める歳になっていた。高校までは一緒だったが大学は互いに別々の所に行って日常で会話することが少なくなった。だからなのか、久しぶりに会うと話に花が咲いた。しかし、喋っていたら疲れるものだ。ふと会話が途切れた。既に黄昏時であり、あと数十分もすれば日がくれ花火が打ち上がり始める時間だ。今だ今しかない。今年こそ言うんだ。静寂が空気を包む中、喉から音を出そうとした時、先に彼女の口から音が漏れた。

「私ね、彼氏が出来たの。」

 次の瞬間、花火は打ち上がった。二人で空を見上げる。だが来るであろう花火の衝撃は、ポツリと呟いた彼女の言葉によって霧散した。残った花火の硝煙は、綺麗な月を隠していた。

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三つの言葉で始まる物語 すいれん @samamotosuiren

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